小説 川崎サイト

 

カレー屋

川崎ゆきお



「昨日は何があったかなあ」
 岸和田は思い出そうとした。これにはきっかけがいる。昨日の出来事の中から何かを探すことではなく、なぜ今、昨日何があったのかと思ったのかだ。要するに目的があるはず。思い出す必要性のある。
 しかし、そのことを意識せず、岸和田はカレーを食べたことを思い出した。それは思い出しやすかったためだろう。昨日、それが少しだけ印象に残った。昼食後、昼寝をし、その後、散歩に出た。商店街をうろうろしているとき、お腹がすいたように感じられた。まだ四時頃で、食べるには早いが、いつもなら三時のおやつで、ビスケットを二つか三つ食べている。それを切らしたため、持ってきていなかったのだ。買えばよかったのだが、おやつを省略する日はいくらでもあり、それでお腹がすいて何ともならなくなるほどのことではない。それに最近高い目のビスケットを買っている。小遣いの使いすぎだ。だから、できるだけおやつは買わないようしたいと心がけていた。しかし、お腹がすいたように感じられる。わずかだが、何かを食べても良いように思われたのだ。その先にカレー屋があることを意識してのことだ。
 ここで夕食をとると、寝る前、お腹がすく。そこでまた夜食を食べる必要がある。カレー専門店のカレーなので、安くはない。それに岸和田は外食など滅多にしない。これも生活費が限られているためだ。外食を続けると経済が持たない。月の上旬だけで食費は切れるだろう。
 だが、小腹がすいたとき、偶然近くにあったカレー屋でカレーを食べるぐらいの余裕は欲しい。毎日ではないのだ。そういう気分の時だけでよい。
 結局、岸和田はカレーを食べたいという気分的なことで、それほどお腹もすいていないのに、飛び込んだ。外食はほとんどしないが、このカレー屋かラーメン屋だけには月に一二度来ている。外食はカレーかラーメン、しかも一番安いものだけにしている。
 夕食を作るのが本当に面倒な日がある。体調が悪いとき、自炊はしんどい。だから、病んでいるときは特別メニューで弁当や外食は許可されている。自分で許可したのだが。
 しかし、この時間帯での外食はまずい。先程も考えたように、夜に腹が減るのは分かり切っている。そのため、カレー代プラスもう一食となる。ビスケット程度ではだめだ。岸和田は夜食を作る気はない。だから、一番安いカレーでも、高いものになる。
 岸和田は結局はカレーを食べ、夜食にパンを買ってきて食べた。これが思い出した中身だ。
 非常に重大な事柄ではないが、昨日何があったのかと思い出したとき、真っ先にこのカレーがきたのだ。
 このカレーは日常を崩すおそれのある行為なのだ。だから、注意して見守らないといけない事柄で、その意味の深さを思い知るべきなのだ。それは半ば暴挙であり、狼藉。
 しかし、それ以前の問題として、なぜ昨日、何があったのかと思い出そうとした理由を忘れている。
 日記でも付けるとき、昨日のことを思い出そうとするきっかけになるのだが、岸和田にはその習慣はない。
 昨日のことを思い出そうとしていたのは、今日はどんな一日になるのだろうかと思ったためかもしれない。その参考として、昨日のことを思い出そうとしたのだろう。
 
   了
 


 


2014年10月20日

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