小説 川崎サイト

 

悪い風

川崎ゆきお



「今日は暑いのか寒いのか、よく分かりませんなあ」
「こういうとき風邪を引きます、風を引き寄せるから、風邪を引くというのです。風邪引きです」
「うんと寒い日よりもですか」
「そんな日も引きますが」
「じゃ、あまり関係がないのでは」
「身構えですよ。身構え」
「とは?」
「今日のように暖かいのか寒いのか、判断しかねる日に、暖かい方を取ると、風邪を引く」
「ああ、それが身構え」
「そうそう。寒さに対して油断ができます。当然着ているものも薄くなる。これは物理的にね。精神的には暖かいと判断した場合、そのペースに乗ってしまう。もしかして寒いのではないかと一瞬思っても、いやいやそうじゃない、今日は暖かいんだと、ここで強情を張る」
「頭だけでは対応できないってことですか」
「気の持ち方とは裏腹に物理的なものがやってくる。当然、体を冷やす。体温が少し低くなるやもしれません。まあ、風邪のメカニズムはよく分かりませんが、抵抗力が落ちる。これは気合いで乗り切れないことがある」
「はあ」
「だから、夏風邪も引く。これは暑いので、腹を出して寝て、寝冷えするとかね。当然、冷房の効きすぎた場所に長居しすぎ、鼻水が出てきたなんて、ざらでしょ」
「すると」
「答えは、暖かいか寒いのか、よくわからん日は、寒い方を取る。これで体を冷やすことはないので、風邪も引きにくい」
「しかし、寒いはずなのに暖かい日に、厚着をすると、蒸れて気分が悪くなることもありますよ」
「この時期暖かいのは暖かい空気が流れ込んできているからでしょ、それで雨が降る。だから、湿気る。この湿気でなま暖かくなる。そのため、厚着をすると蒸れる」
「ふかし芋のようになりますよ。特に化学繊維を着ていると、ビニール袋を被っているようで」
「はいは、それは、まあありますがね」
「それで、汗をかく。その汗が冷えてきたとき、寒い寒い。だから、厚着も問題なんじゃないですか」
「まあ、そうだけど」
「しばらくすると、喉の調子が悪い」
「うーむ」
「だから、好きなのを着てもいいんじゃないですか」
「あなた、それ、本当の風邪ですか」
「え」
「私は鼻のアレルギーがあって、それが風邪の諸症状と似ています」
「僕は喉に出ます。息苦しくなったりします。朝なんて、唾を飲み込むとき痛い。来たなーと思いますよ」
「風邪って、いろいろあるんでしょうねえ」
「風邪薬の風邪とは別にですか」
「風の邪と書きますからなあ」
「邪悪な風ですか」
「悪い風が吹くわけでしょうなあ」
「それは幼稚な」
「今日のように、暖かいのか寒いのか分からないような日の風は怪しい。これは注意が必要でしょう」
「どんな」
「だから、身構えることで、少しは防げる」
 喉が弱い方の人は、しゃべりすぎて、喉がかれだした。
 鼻の悪い方の人は、興奮して鼻水を垂らした。
 風邪とは関係がないのかもしれない。
 
   了
   
    

 


2014年10月27日

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