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ブログの男

川崎ゆきお



 岡崎がその男、吉田憲三を見つけたのはブログだった。
 検索で見つけた。吉田憲三で検索したわけではない。彼に興味を覚えたわけではないが、今は興味深く観察している。
 岡崎が検索したのは豊芝町だった。岡崎が住む私鉄沿線の小さな町だ。地元に興味があったわけではない。豊芝と検索すれば何が出るのか試しただけだ。
 吉田憲三のブログの中に豊芝町と書かれた文字が入っていたためだろう。検索一覧の後ろの方にあり、画面を何枚も捲らなければ辿りつかない位置だった。
 岡崎は豊芝町のことを調べようとしたわけではない。どこでもよかった。それで、一覧の後ろ側を開け、本当に適当な感じで、そのブログに入った。
 吉田憲三のブログは日記だった。特に豊芝町の文字が多く使われているわけではない。普通に書いている。
(豊芝町駅前のファーストフード店へ今朝も行く)
 などと自然に使っているだけで、豊芝町の町情報ではなく、日記の中の豊芝町なのだ。
 岡崎は吉田憲三の日記を斜め読みした。
 会社には行っていないようで、平日の昼間から真冬用の防寒着を買いに行ったとか、釣り具店を覗いたが、好みの紺色のゴム長がなかったとか、どうでもいいような日常が綿々粛々語られている。
 ブログは毎日更新されているが、読んだ人がコメントを書き込んだ気配は一切ない。コメントを書き込めないように設定されているわけではないようだ。
 トラックバックには出会い系の広告が数個溜まっている。定期的に削除しているようで、日時が新しい。
 吉田憲三は匿名ではない。実名を晒したくなければニックネームを使うはずだ。
 岡崎は吉田憲三で検索すると、この吉田憲三がひっかかるだけで、有名人ではない。
 それから岡崎は毎日吉田憲三の日記を読みに行った。日記が面白いからではない。吉田憲三なる男に興味がわいてきたわけでもない。ただ何となくなのだ。
 おそらく、誰も見ていないブログだ。吉田憲三も他のブログに行き、コメントを書き込まないのだろう。そういう付き合い方もしていない様子だ。
 日記によると毎朝駅前のファストフード店に行っていることが分かる。駅前に一軒だけそういう店がある。岡崎は入ったことはない。
 岡崎は吉田憲三を見てみたいと思うようになった。
 
   了
 
 



          2007年1月15日
 

 

 

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