小説 川崎サイト

 

豆腐屋の地下ダンジョン

川崎ゆきお


 土地の人に聞いてみなければ分からないことがある。当然聞かれて初めて語ってくれることもあり、自分からは話さない。隠し事をするほどのことではなく、ただ単に聞かれなかったので、話さなかったことも多い。
 その町は古い。そこにある商店街は今風ではない。かなり以前にあった町屋風だ。つまり、アーケードで道を囲ったり、商店街らしい飾り付けをやっているわけではない。単に店屋が並んでいる通りということで、その中にはふつうの家も入っている。
 中心部から少し離れた場所にあるが、そこから先は山になる。そのため、ぎりぎり市街地に入っている。山と山の隙間に街道が走り、これはかなり遠くまで続いているため、山村から買い物に来る人もいたのだろう。それは昔の話で、今は電車が山間を走り、この町は通過されてしまう。そのため近所の人しか客は来ない。
 つまり、忘れ去れたような町なのだが、商店街はシャッター通りではない。というより、ただの道路沿いのためだろう。
 さて、聞いて初めて分かることだが、この通りに地下があるらしい。真上にアーケードがあるのではなく、真下に通りがあるのだ。道路の下に地下鉄が走っているようなものだ。ただ、そのトンネルは人がすれ違える程度の幅しかない。
 今は完全に封鎖されているが、水道工事などでは、このトンネルを避けて埋め込まれている。上下水やガス管や、ケーブル類も。
 それは戦時中の話をやっていたとき、この話題になった。つまり防空壕なのだ。山が近いと言っても距離がある。警報が鳴ってからでは山に逃げ込めない。山沿いの防空壕まで遠いのだ。それで、商店通りの人たち用に掘られた。
 これはふつうの住宅地でも、数軒単位で肥溜めのような穴を掘り、防空壕代わりにしていたこともあるようだ。ゴミを入れる穴程度の。それらは埋められたが、その商店通りの防空壕はしっかりとしたトンネルで、上から土をかぶせるようなわけにはいかない。埋めにくい防空壕なのだ。そのため、封鎖し、放置している。当時としてはしっかり造られたトンネルで、上を自動車が走っても、問題がないのだろう。
 当然老朽化し、崩れる可能性がある。すると道路が陥没するかもしれない。ただ、一度もそういうことはなく、当局も予算の関係で後回し後回しのまま、放置されているのだ。大きな排水溝を通すときなど、利用できるかもしれないので。
 防空壕への入り口は何カ所かあるが入り口は埋められている。しかし、一カ所だけ鉄の扉がある。扉の前は物置のようになり、地下への入り口だと分からないようにしている。
 その最後に残った出入り口は豆腐屋が管理していた。その敷地にあるためだ。この豆腐屋は地下水で豆腐を作る。地下に水槽を持っているのだ。
 今、中はどうなっているのかは分からない。また、興味を持つ人も希で、噂にもならない。
 この話は豆腐屋に偶然取材にきた人が、地下水槽を見せてもらったとき出た話のようだ。
 嘘か本当かは分からない。もう誰も見ていないためだ。その防空壕跡を。
 
   了
    
   
 

 


2014年11月9日

小説 川崎サイト