小説 川崎サイト

 

マイペース

川崎ゆきお


 自分のペースがある。それに持ち込めば安定する。それは人のペースに合わせることでもいい。自主的に作る必要はない。マイペースと言いながらも一人で決められることには限りがある。特に集団では。
 自分のペースに持ち込むには、ベースが必要だ。ベースがなければ、ペースも作りにくい。ペースとベース、よく似ている。だから、いくら自分のペースに持ち込みたくても、ベースがなければ難しい。そのため、ベース作りから始めることだろう。そのベースに乗っている状態を、自分のペースに持ち込んだというのだろうか。
「マイペースですか」
「そうです。これはねえ、すぐに分かります」
「何が」
「だから、どんなことを日々やっているのかが」
「簡単なことを難しく言ってませんか」
「言ってません」
「じゃ、どんなことです」
「朝ねえ」
「はい」
「十分か十五分早く起きてしまった」
「そう言う話なのですか」
「ここに含まれているのですよ。いろいろなことが」
「はい」
「朝一番にやる仕事があるのです。野暮用のようなもので、雑用のようなものですが、これは決まりがありまして、順番があります。例えましょうか」
「はい、お願いします」
「起きてトイレへすぐに行くか、少しテレビを見てから行くか、または顔を洗うのが先か、トイレが先か……」
「例えは、もういいです」
「じゃ、続けます」
「お願いします」
「えーと何の話でした」
「十五分早く起きたのでしょ」
「つまり、その順番でこなし、最終的には朝食をとってから家を出ます。しかし、いつもこなせていない事柄があります。例えますか」
「そのまま進めてください」
「はい、それがいつもできないまま家を出ていたのですが、できるようになりました。十五分ほどでできることです」
「それは早起きは三文の徳ってことですか」
「違います。得はしません。しかし、ペースが狂うのです。いつもそれで、やり残したまま家を出るので、戻ってきたり、出先でやるのですが、これがペースを乱す。つまりずれ込んでいるような、スケジュールが押しているような感じを抱いたまま一日を過ごす感じです」
「それで」
「よく考えると、いつも起きていた時間よりも、遅れて起きていることが判明しました。十五分遅く起きてきていたのですね、最近。だから、十五分分がない。だから、こなせない。だから、ずれ込み、落ち着かない」
「えーと」
「詰まらん話だと思うでしょ」
「まあ」
「つまりそのペースでは、そのベースに踏み残しが出る」
「要するに怠けないで、朝はしっかり起きましょうと言う話でしょ」
「そうです。ついつい十五分ほど寝過ごしていたのです」
「簡単な話でしたねえ」
「しかし、ベースを減らすと、寝坊できる」
「まあ、そうですが」
「よく考えると、やらなくても良いことまでやっていた」
「知りませんよ。そんな細かい話」
「しかし、十五分ほど早く起き、以前の起床時間に戻ったときは、マイペースを感じましたねえ。やるべきことはやり、家を出たと、得心しました。いい感じで一日が過ぎているとね」
「だから、いつもの時間に起きれば、良いだけの話でしょ」
「これなんて、一人で決めて、一人でできるから、まあ何とかなるのですが、団体戦になるとそうはいかないですなあ。ペースの取り合いになります」
「そちらの話の方が大事でしょ」
「そうでした」
 ベースを征する者、ペースを得るという諺はない。
 ベースは場に、ペースは流れに関係するようだ。
 
   了
 
   
 

 


2014年11月11日

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