小説 川崎サイト



未来が見える眼鏡

川崎ゆきお



 さて、このことを語るのはあまりにもいかがわしい。だが世の中はいかがわしいことで満ち満ちている。未来が見える眼鏡があったとしても、決して不思議ではない。
 しかし明らかにそれはあり得ないという意味であり得るのだ。
 出島は分かっていながら引っ掛かった。どんなものかを知りたかったのだ。
 出島は子供の頃から漫画雑誌に載っている広告のファンで、漫画より、そこで売られている怪しげな商品を眺めるのが好きだった。漫画を読む時間よりも広告を見ている時間が長いほどだった。
 漫画は二度読むことはめったにないが、通販広告はずっと見ていられる。それはフィクションではなく、現実と繋がっているからだ。
 そして現金書留で代金を払い、数日後に届く郵便物を待つのが楽しかった。
 騙されても騙されても出島は小遣いの続く限り買っていた。
 出島は騙されることを苦にしない性癖なのだ。どういう騙し方をやってくれるのかを楽しめる境地に達していたとも言える。
 最近興味深いネタがなかった。そんな時期、この未来が見える眼鏡の広告メールを見た。久しぶりの大ネタだと出島は小躍りした。
 よくもまあ、ぬけぬけとこんなものを……と眉をしかめるが、口元は笑っていた。
 広告メールからホームページへ飛ぶと、サングラスの写真が載っていた。商品はこれだけで、購入用のメールフォームがある。
 出島はフォームに記入し、OKボタンを押した。
 数日後、未来の見える眼鏡が届いた。出島は驚いた。まだ銀行から代金を振り込んでいなかったのだ。支払いは振り込みのみで、入金確認後商品を発送する、となっていた。それが届いたのだ。
 出島は梱包を破るように剥がし、眼鏡を手にした。写真にあったサングラスだ。
 すぐにかける。
 暗い。
 非常に暗いサングラスで、ほとんど前が見えないほどだ。
 未来は暗いのか……それとも、未来は見えるものではないという洒落なのか。
 どちらにしてもインチキだ。
 と、出島は納得した。
 その後、業者は何も言ってこない。
 数カ月後、出島は、あのホームページへ飛んでみた。
 既に閉鎖されていた。
 
   了
 
 



          2007年1月16日
 

 

 

小説 川崎サイト