小説 川崎サイト

 

魚の目が見る夢

川崎ゆきお


「胃が夢を見るのですか」
「胃が夢を見させるのです。胃が見る夢ではありません」
「夢は頭で見るのでしょ」
「しかし、胃なのです。この夢は胃だなあと思いましたよ」
「ほう」
「腸もあります」
「腸の夢」
「喉もあるし、鼻もある」
「身体が夢を見させるのですか」
「そうです。悪いところがあると、そこが夢の発生源なんです。しかし、胃の夢じゃないし、喉の夢じゃない。きっかけですなあ」
「ほう、初耳です」
「耳が見せる夢もあります。別に音に関係した夢じゃないですがね」
「ほう。それは何ですかな」
「体調が良いときは夢を見ません。だから、最近はまずまずです。どこか悪いところあると、夢を見ます。悪いところとかは関係のない夢ですがね」
「それは不思議な話ですねえ」
「朝までぐっすり眠った。夢一つ見ないで……というのがいいのです。特に悪いところがないのでね」
「夢で健康状態が分かるのですか」
「熱があるときは、変な夢を見るでしょ。まあ、良い夢を見ることもありますが」
「それは眠りが浅いと言うことですね」
「寝入りばな、すぐに見る夢、明け方の夢、いずれも浅いですなあ」
「起きる直前、よく夢を見ますよ。まあ、いつ見たのかは分かりませんが。寝入りばな、確かに夢を見ることがあります。これは、すぐに起きときでないと分かりません。そのまま寝ていたら、朝になって忘れていたりしますし」
「もう起きないといけないのに、無理とに寝ていたとき、連続してたくさんの夢を見ます」
「はいはい」
「腹具合が悪いとき、よく夢を見ましたよ。これは胃の夢か、腸の夢か、十二指腸か、食道の夢か、大腸かまでは分かりませんがね」
「ほう」
「魚の目が痛いときも、よく見ましたよ」
「魚の目が見る夢、それは前衛ですねえ」
「機械の中の幽霊ってのもありますしね」
「はいはい」
「悪いところがあるとき、悪い夢じゃなく、良い夢もよく見ますよ。しかし、何処か破綻があり、怖い結末へと流れ込んでいくことも」
「あります。あります。はちゃめちゃになってしまう夢」
「昼間のことが夢に出ると言いますが、おそらく覚えていないでしょう。見ていても」
「そうなんですか、それは惜しい。録画が効きませんからなあ」
「しかし、具合が悪いときは、途中で起きるのでしょうかなあ、それで覚えている」
「そうなんですか」
「個人的見解です。体験なので、嘘じゃありません。私に関しては」
「はい」
「患部仕様の夢になるような気もしますが、これはまだ仮説で、思い当たるところが少しある程度で、まだまだ曖昧です。なぜなら、体や精神の悪いところは自覚できないことも多いからです。胃腸のように派手に反応しませんからなあ」
「喉もそうです。鼻も過敏です」
「鼻が悪いと、息が苦しくなり、起きやすい。それで、夢の途中で起きたりしますので、夢を覚えている」
「はいはい」
「だから、私の健康チェックは、夢が少ないことです」
「なるほど」
「昼間の現実でもそうです。夢は願望のようなものでしょ。それが少ないほど、いいんじゃないかと思いますよ」
「ああ、何となく、分かったような気がしたことにします」
「夢の神秘、これは何とでも言えますから」
「はい」
 
   了
   
 

 


2014年11月16日

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