小説 川崎サイト

 

ドアを見た

川崎ゆきお


「重厚なドアですか」
「丈夫なドアじゃない。木ででできているがね。凹凸がかなりある。模様にはなっていないが、入れ子状の枠や飾りのようなものがある。丁度目の高さより少し高いところに獣の浮き彫りがある。ここは真鍮かなにかだ。金属的な光だ」
「古城の貴賓室のような」
「そうだね。だが、ビル内なので、天井はそれほど高くはない。だから、ドアの高さもそこそこだ。観音開きじゃなく、手前へ引くタイプだ。押してもいい。まあ、入るときは、ドアの向こうに人がいるかもしれないので、引くがね」
「出るときもそうでしょ」
「そうだね。廊下に誰かがいるかもしれないからね。しかし、ドアの前に四角い柱のようなものがあって、ドアの前に少しスペースがある。だからいきなり廊下じゃない」
「はい」
「それが出るんだよ」
「出にくいと」
「出るんだ」
「廊下に出るんですね」
「いや、ドアが出るんだ」
「はあ」
「そういうドアが出るんだ」
「ほう」
「古いビルじゃない。そんな装飾もののドアなどない。そこは柱と柱の間で、ただの壁だよ。壁はコンクリートで、向こう側は偉いさんの部屋だ」
「どういう話でしょうか」
「だから、ドアだよ。ドアが出る」
「ドアの幽霊ですか。それとも秘密の扉」
「そうだ」
「簡単に言われますねえ」
「偉いさんの部屋が並んでいる。その中ほどだ。その壁にはドアなどない。ちょうど間ぐらいだ。柱の位置からいくとね。だから、村山さんと土岐さんの間ぐらいだ」
「重役室ですねえ」
「そこで考えた」
「はい」
「お二人の部屋の間に空いだにスペースがあるんじゃないかと」
「あ、はい」
「それで、聞いてみましたよ」
「結果は」
「壁が分厚い程度だと」
「でも隙間があり、そこに小部屋があるとしてもですよ。廊下側にドアが浮かんだり消えたりなんてしませんよ」
「そうなんだ」
「夢の話ですね」
「いや、それなら最初から、夢だと断るよ」
「じゃ、何ですか、その重厚なドアは」
「私の幻覚だろうねえ」
「医者へ行きましょう」
「ああ、しかし、そういう症状を借りて、私に何かを見せようと、あるいは何かを知らせようとしているんじゃないかと」
「まさか、その分厚い壁に人が」
「本当に壁だろうか。隠し部屋じゃないのか」
「そこに誰かを閉じこめて、そのまま」
「それは昔の怪奇映画だ」
「じゃ、何ですか」
「これを見た人は私だけのようだ」
「じゃ、やはり医者へ」
「そうなんだが、不思議なこととしてすませたい」
「あ、はい」
「特に私、変なところはないだろ」
「そうですねえ。妙なドアが見える程度で」
「一つぐらい、いいだろ」
「え」
「そんなことがあっても。一つぐらいなら」
 
   了
   
 

 


2014年11月25日

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