小説 川崎サイト

 

巫女のいる神社

川崎ゆきお


 スケジュールが何もないというのは自由でいいのだが、これが曲者で、休憩でもしておればいいのに、何かやりたくなる。何もない時間が怖いのかもしれないが、当然これは内側からの恐怖だ。ただ、怪談やホラーではないので、怖いと言うより不安なのだろう。
 ポッカリと空いた時間、佐山は好きなことをして過ごせばいいのだが、特に趣味はない。行きたいところはあるが、仕事で方々回っているので、そのついでに見学できる。これがもし、仕事抜きで、観光や行楽だけで行ったとしても、何か頼りない。つまり、そんな場所で遊んでいる場合かと思うからだ。これは働いているほどの充実感がないためだ。お金が入ってくるのではなく、出ていくのだから、これが何となくもったいない。
 三連休の二日目までは寝て暮らした。しかし三日目になると、さすがに飽きる。やはり、何処かへ出かけようと、家を出てみた。
 しかし、行くところがない。普段から遊びに出たりしないからだ。そこで損をしないように、近場ですませようと、近所を歩くことにした。これなら交通費を使わないため、失敗しても損はない。そして、無駄遣いしないように、小銭をポケットに入れた程度だ。本人を証明するものとか、カード類は近所では必要ないだろう。むしろそういうのを持ち歩くことで、落とす可能性もある。
 普段から近所を歩いていないため、すべてが新鮮に見える。引っ越しから三年になるが、駅前までの道沿いしか知らない。
 観光地代わりに近所の寺社でも回ろうと、山沿いへ向かった。
 どの辺りに神社や寺があるのは分からない。調べもしていない。
 少し坂道になり、道も狭くなる。参道のようで、小さな鳥居をくぐる。常夜灯のようなものが、両脇にあるが、中を見ると、何もない。ただ、蝋燭たてがある。正月にでもつけるのか、祭りの日につけるのかは分からないが。
 有名な神社ではなさそうだが、やがて階段になる。だから、この階段の先は神社しかない。
 上から降りてくる人がいる。
「あんたもかい、今空いてるはずだ。わしは終わったから」
「はあ」
 男はにやっとしながら、階段を下りていった。腰が軽そうだ。
 階段を上りきったところに、境内がある。本殿の横に渡り廊下と屋根が連なっている。そのため、少し建物が大きい。
 佐山はせっかく来たのだから柏手を打つことにした。一円も使わず観光地を訪れた気分になれた。
 パンパンと適当に手をたたくと、すぐに返事が返ってきた。
 何かと思い、神殿の扉、これは格子なので薄暗いが中が何となく見える。そこに人影。
「まさか神様」とは、さすがに佐山は思わない。なぜなら女性の声のためだ。
「上がりますか」
「あ、はい」
「その前に賽銭をお願いします」
 佐山は、本殿の中で拝めるのかと思い、ポケットから五円玉を取り出し、賽銭箱に入れた。
「こちらの賽銭箱でお願いします」
 巫女さんは格子を少しだけ開け、小さな賽銭箱を出した。佐山は十円玉を入れたが底が浅く、丸見えだ。
「ご冗談を」
 巫女さんは笑っている。
「いくら何でも、それでは」
「ああ、はい」
 佐山は百円玉を取り出し、それを入れる.。
 巫女さんは「ふーと」吐息をつく。
「少ないですか」
「万札以上」巫女さんは三日月のように目を細めて言う。
「え」
「あ」
 佐山は財布を持ってこなかったことを後悔した。
 
   了
   
   
 

 


2014年11月28日

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