小説 川崎サイト

 

動く仏壇

川崎ゆきお


 人の意見は、その人の都合の良い意見が多い。そのために意見をわざわざ言うのだろう。ただ、似たように都合が悪いとか、良いとかの人は共通して、その意見を言う。これはどこまでが自分勝手なのかは曖昧だ。同じ人でも立場が変わると、意見も変わったりする。だから、この意見というのは変動する。意見というものが変化するのではなく、人が変化しているためだ。
 当然何も意見のない人もいる。特に都合が悪くなるから、意見を言って何とかする必要もなく、また、自分に都合のいい意見を強く言い、より都合良くしようとはしない人もいる。
 意見を持っていても言うタイプと、そうではないタイプがいる。だが、それは言わなくても、何となく伝わるのだが、これは親しい人の間だけかもしれない。
 ただ、意見があまりない人の方が平和だ。それなりのペースできているのだろう。ただ、意見を言い続けないと勝ち取れないものもある。
 高橋は人が意見を言うのを聞いていて、可愛いと思う。子供がだだをこねているのと重なるからだ。
 意見や主張をしないと、どんどん他人に勝手な真似をされ、大損することもある。
 高橋はそのタイプで、何も意見を言わないため、流されるままに生きてきた。ただ、ひどい目にあったことはあまりない。キジも鳴かねば撃たれまい、ではないが、よけいなことは言わないタイプだ。当然それは諦めモードの中に常にいるからだろう。そのため、得られるものも得られないままだったする。目減りはしているが、我慢できる程度だ。
 そして、今日も会議に出ているのだが、相変わらず動く仏壇のように、ものを言わない。ただ、この仏壇、縁起物として欠かせないらしい。
 意見も言わないで会議に出る。それなら、会議に出る必要はないのだが、まあ、立会人のようなものだ。高橋はそれでも重鎮だ。
 意見を過激に言い続ける人の方が出世するし、リーダーになれる。だが、そんな人ばかりでは船頭が多すぎる。船の安定のため、重石も必要だ。そういう意味で、重鎮と言うことになる。中は空だが、不思議と重い。
 
   了
   
   
   
   
 


2014年12月1日

小説 川崎サイト