小説 川崎サイト



さてどうするか

川崎ゆきお



 さてどうするか……と津村はまたそこに戻ってくる。
 会社から帰り、好きなことをしてもかまわない時間が寝る前まである。
 大きなノートパソコンのワープロ画面の文字を見ている。
 さてどうするか……の文字を見ている。検索で探せば、何個も見つかるほど、この言葉を多用している。
 ワープロで日記を書いており、そこが津村のホームページだった。つまり、この日記ファイルが津村の住処なのだ。
 大袈裟に言えば参謀本部であり、大事なことは、ここで決まる。
 しかし、さてどうするか……の文字が示すように、やることがないのだ。
 それで、どうしてやることがないのかを考える日々となっている。
 日記を書くにしてもネタがない。会社での出来事は持ち込みたくない。ここでやりたいのは好きなことなのだ。
 だが、その好きなことが見つからない。そこで、なぜ好きなことが見つからないのかを考える。考えるだけではなく、それを書き込んでいる。
 そうなると何かの手前の問題と対峙している自分に気付く。これはこれで面白く、もしかすると、これがやりたいことなのかもしれない。
 だが津村はすぐに否定する。もっと一般的な趣味と言えるものを実行したいのだ。
「津村さん、ネットやってる?」
 ある日、同僚の木村から聞かれた。
「いやワープロだけだよ」
「津村さんの家なら光がきてるよ。工事費も無料だし、パソコンが生き返るよ。世界がパーと広がるしさ」
 さてどうするか……で止まっていた次なる行動はそれかもしれないと、津村は早速導入した。
 それからは忙しい日々が続いた。もう、さてどうするか……の文字をワープロに打ち込むこともなくなった、というよりワープロを起動することもなくなった。
 木村の紹介でネット上のコミュニティサイトに入り、日記もそこで公開した。
 そして、いろいろな掲示板に参加し、コメントを書く日々が続いた。
 やっとやることが出来たので津村は満足を得た。
 ある日、とんでもないことが津村のネット生活上で起きた……という話は聞かない。
 
   了
 
 



          2007年1月18日
 

 

 

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