小説 川崎サイト

 

夢の中

川崎ゆきお


 朝から用事が立て込み、昼を過ぎてもまだご飯を食べる時間がない。いつも暇な浦上としては珍しいことだ。昼までの仕事は一時間ほどで済む。残った時間、テレビを見たりネットを見たり、ネット上の映画やゲームなどで過ごしている。昼ものんびりとしたもので、外食に出るのだが、二時間ほどその辺りをうろついてから帰る。午後の仕事も一時間とかからない。午前と午後では仕事の内容が違うため、間を置いている程度で、一日の仕事量は二時間で終わる。
 これはフリーランスになってからで、実際に必要な仕事だけなら二時間で済むことが分かった。そのペースで暮らしていたのだが、今日は特別忙しい。飛び込み仕事が重なったためだ。しかし、三時のおやつまでには片付くだろう。
 フリーランスになってから、収入は減ったが、その分、楽になった。できれば仕事などしたくないのだろう。また、それ以上いくらやっても儲かる話でもなく、また大成功を納めるような業種ではない。ちょっとしたメンテナンス業で、大がかりなものではない。ちょっと器用か、物知りなら、できることだ。
 今日のように仕事が立て込むのは災難のようなもので、しかもやり直し仕事が偶然重なり、これは収入にはならない。だから、余計なことなのだ。
 それで、一段落付いたので、外食に出た。いつもより二時間ほど遅い。ランチタイムをまだ夕方近くまでやっている店に入り、日替わりランチを注文した。たまにこの店に来ている。日替わりといってもハンバーグか焼き肉か、フライの盛り合わせか、その三つのうちだ。それにこの店は喫茶店でもあるので、ついついコーヒーも注文してしまう。それで高いランチになるので、気が向いたときにしか来ていない。しかも、こんな遅い時間は初めてだ。もうランチタイムのピークも終わり、客が一番少ない時間帯なのだ。
 今日のように忙しくなければ何をしているのか、と浦上はどうでもいいことを思い出していた。毎日やっていることなので、思い出すも何もない。昼寝をしているはずだ。
 つまり本来なら浦上はこの時間寝ているのだ。昼寝は一時間ほどで、寝付けない日もあるし、うっかり夕方まで寝てしまうこともある。しかし、平均して一時間だ。そして、それが今なのだ。
 店に客がいない。店主もカウンターの後ろに引っ込み、奥の部屋で用事をしているようだ。たまに物音が聞こえる。
 コーヒーを飲み終えると眠くなった。コーヒーを飲むと頭がしゃきっとするのだが、この時間は違うようだ。焼き肉がしつこかったのかもしれない。肉ではなく、タレが。
 そのうち気持ちよくなりだし、あとは夢の中となった。
 冬の陽は早い。店主に起こされ、外に出たときはもう真っ暗だ。
 寝ぼけているわけではないが、寝起きが悪い。頭の真がまだぼんやりとしている。
 野中の一軒家。
 そんなはずはない。ここは繁華街のはずれだが、野中ではない。振り返ると、その喫茶店だけがぽつりとある。これはまだ夢を見ているのではないかと、もう一度喫茶店のドアを開ける。
 すると、煙草の煙で店内は靄り、きつい照明が射している。どのテーブルにも客がおり、ざわめいている。
 カウンターの店主が違っている。若返ったのか、青年だ。てかてかのポマードでオールバック。その横に胸の開いた服を着た女性がいる。真っ赤な唇で。
 ああ、この手の夢はよくある、よくあると思いながら、浦上はドアを締め直した。そして、野中の一軒家は、ふつうのいつもの繁華街の場末に戻っていた。
 しっかりと昼寝から目覚めたようだ。
 
   了

 


 

 


2014年12月25日

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