小説 川崎サイト

 

様子伺い

川崎ゆきお


「最近どうですか」
「いつも様子伺いご苦労さんです。ところで、あなたの様子はどうなんですか」
「悪いです」
「ほう、それはいけない。じゃあ、人の心配をしている場合じゃないでしょ」
「いや、その方が気が安らぐのです」
「そんなものですか」
「はい、で、どうですか、最近のご様子は」
「良くもなく悪くもない」
「それはなにより」
「実際には少し良いときもあるし、少し悪いときもありますがね」
「私は常に悪いです。あ、余計なこと、言ってしまいました」
「じゃあ、調子の悪い人が様子伺いをやる。これは何でしょう。やはり気が安らぐからですか」
「いえ、私の場合、常に調子が悪い状態がふつうなので」
「妙なふつうですなあ。慢性不調ですか」
「まあ、その話より、どうですか最近」
「先ほども言いましたように、特に変化はありません」
「それはなにより」
「全くないわけじゃないけど、喋るほどのことじゃない」
「あ、はい」
「寒くなると用を足すのがいやでねえ」
「どんなご用で」
「便所だよ」
「寒いですからねえ」
「小はいいが、大が寒い」
「はい」
「それで、便秘になった」
「寒いから便秘ですか」
「それもあるけど出ないと、もう途中でやめるから」
「寒い場所にいたくないわけですよね」
「それで腹が張って辛い辛い」
「何日ほど続きます?」
「二日ほどかな。来るのを待っているんだ。これは来る。来なけりゃ、これは問題だ。だから、この程度のことなので、言うほどのことでもないんだ」
「今もそうですか」
「そうだね、朝は出なかった。根気がないんだ。ずっとしてるのがいやでねえ。見切りを早く付けすぎた。もっと待機しておれば、出たかもしれんがね。寒いので、やめた。それに少し寝過ごしてねえ。こんなところで粘ってちゃ時間がもったいない。出るんならいいよ。かなり待っても出なかった日もあるんだ。だから、見切りが大事だ」
「あ、はい」
「細かい話で悪いねえ。変わったこと、他にないから、この程度なんだよ」
「いえいえ」
「この話、聞いて、あなた気が楽になったかね」
「いえ」
「あなたのほうが心配だよ。調子悪いのでしょ」
「それは、まあ」
「聞いてやるよ」
「いえ、プライベートなことなので」
「それはないだろ。人に尾籠な話題、さんざん喋らせておいて」
「ああ、すみません」
「まあいいけど、調子が悪いのなら、こんなボランティアしなくてもいいよ。見ているこちらが辛くなる」
「ボランティアじゃありません」
「そうだったか」
「お金をいただいています」
「ああ、忘れてた。娘が払っていたんだ」
「はい、だから、続けさせてもらいます」
「大変だねえ、仕事だと。じゃあ、また来てもいいよ。じゃないとあなたの収入減るでしょ」
「助かります。恩にきます」
「分かった気がするなあ」
「何がですか」
「人を助けた気になり、気休めになる。いい気分だ」
「あ、はい」
 
   了
   
   


 


2014年12月31日

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