小説 川崎サイト

 

黄昏の丘

川崎ゆきお


 黄昏時、黄昏ている人がいる。その年齢も黄昏ている。だからミスマッチではなく、黄昏時には風景と同化している。
 そこへ年齢的には黄昏をとっくりに過ぎ、とっぷり夜に入っている老人が現れた。若い方の黄昏人よりも恰幅がよく、身なりも良い。
 道ばたでポツンと黄昏れているわけには行かないので、二人とも黄昏やすい黄昏の丘にいる。黄昏なので、朝日ではだめだ。夕日に限る。しかも鮮やかな夕焼けではなく、地味な色目で、日が没した後の僅かな残り火のような紅色がいい。もう夜の暗闇が空を覆いつつあり、数十分で紅も消えるような。
 黄昏の丘なので夕日専門で、東の空は高い斜面のため、よく見えない。
「堀川君じゃないか」老人が先に見つけ、声を掛ける。その中年男、もう五十を超えている。その後ろ姿だけで、老人は分かったようだ。
「先輩も黄昏ですか」
「それはもうとっくに終わり、闇夜だよ」
「そうですか。最近お見かけしないので」
「ああ、フェードアウトだ。じわじわとな」
「そうでしたか」
「君はまだやっているようだね。たまに名前を見るよ」
「はい、もうこの年なので、名の残るような仕事をやってますが」
「超ベテランだからねえ、君も。声をかけてくれる人が少なくなっただろ」
「体力的にはまだまだいけるのですが」
「昔は、何処に行っても、君の姿を見つけたよ」
「あれは、若い頃です」
「使いやすかった」
「はい、先輩には何度もお世話になりました」
「古い言い方だが、老兵は去るだ。仕事がないので、しょんぼりしていたのかね」
「あ、はい」
「企画は出してますか」
「はい、いろいろと」
「でも、通らない」
「はい」
「ふつうだよ」
「ふつう」
「うん、私もそうだった」
「寂しい話ですねえ」
「今度、勝負に出て負ければ、もう遠のいた方がいいよ」
「勝負ですか」
「最後の勝負だ」
「そうですねえ、仕事がなくなれば、転職するしかないですから」
 黄昏の丘は横に長く続いており、少し間隔を空けて、黄昏人達が横並びの数珠繋がりとなって座っている。
 この二人のように会話組もあれば、おひとり様もいる。席があるわけではないが、早い目に来ないと、満席になるようだ。
 
   了

   
   

 


2015年1月5日

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