小説 川崎サイト

 

廃屋巡り

川崎ゆきお


 下田は廃屋巡りをしていた。しかし現実のものではなく、ネット上のホームページだ。下田はネット歴が古いので、古いブックマーク、つまりホームページのアドレスを持っている。その殆どは消してしまったが、ブックマークのバックアップをしていたものがあり、それが倉庫の隅のようなフォルダに残っていた。
 この古いブックマークは過去へワープする仕掛けでもある。もう行くことはなくなったホームページ、ウェブページだが、未だに生きているホームページもある。ただ、アドレスが変わったものも多い。
 つまり、ブックマークとは、ウェブページのリンク集のようなものだが、頻繁に行かなくなれば、消している。ネットサーファーという言葉が流行った時代なら、巡回コースだ。
 最近下田が回っている廃屋とは、個人が作ったホームページだ。そのまま放置されている。ブログでも個人のホームページは作れるが、それ以前の時代のものだ。
 下田もその時代、自分のホームページ、家を建てた。その家は何度も改装改築され、最初の頃の家とは印象が違っている。そこに日々のことや趣味に関するページを作り、掲示板を作り、ネット上で知り合った人と訪問ごっこをしていた。
 そのとき、交流していた人達のホームページ一覧が出てきたのだ。例の古いブックマークだ。当時の人達とは今はもう交流していない。
 それで、そのリンク集から飛んだのだが、殆どが、そんなアドレスはありませんと表示される。
 その中で、まだ残っている家があり、当時のままだった。更新日を見ると、二十年以上前。月日が立ちすぎている。それを作った人はまだ学生だったので、今はもう中年になり、子供がいるかもしれない。そして、ホームページではなく、本物の家を建てたかもしれない。
 その人はドット絵のアイコンを作るのが好きな人で、その作品集を公開していた。下田もその一つをコピーし、自分のホームページで使ったものだ。
 学生だったが、絵が得意な人で、ホームページのデザインも垢抜けていた。その後どうなったのかは分からないが、デザイン関係にでも進んだのだろうか。
 下田がホームページごっこをしていた時代のブックマークで、まだネット上に残っているのは、この人だけだった。
 メールアドレスも分かっているのだが、まだそれを使っているのかどうかは分からない。それに用事がないので、連絡を取る必要もない。当時、それほど親しくしていなかったため、相手も下田のことなど忘れているだろう。
 その廃屋ホームページ、デザインが良いためか、今見ても古くはない。まるで最近作ったウェブページのように。しかし、死んでいるのだ。二十年前に更新したまま。
 そのアドレスを見ると、大きなプロバイダーだった。その中に個人のホームページを作るスペースが用意されていたのだろう。だから、この人はまだそのプロバイダーを使っており、ネットはやっているはずだ。
 下田はそういう個人の家だけではなく、個人が作ったポータルサイトへもよく行っていた。そのブックマークも出てきたが、やはりそのアドレスはありませんが多い。
 それでも何カ所かは放置されたままだが、残っていた。そこには当時の熱気のようなものが伺われる。もう今は誰も熱中しないようなネタや情報が並んでいたりする。
 下田はそういう廃屋巡りをしているとき、もし、自分と同じように、巡っている人が、自分のホームページへ来たときのことを想像し、今まで放置していた廃屋を少しだけ修繕することにした。
 
   了
   

   

   


   


2015年1月12日

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