小説 川崎サイト

 

今日様占い

川崎ゆきお


「昨日あったことが今日生きるためのヒントなのです」
「ほう、何ですかな、それは」
「私は毎朝、起きたとき、すぐにではないですが、しばらくして昨日のことを思い出します」
「すぐじゃないのですか」
「はい、寝起きいきなり、そんなことを考えません。まあ、まだ頭がしっかり起きていないので、それで、しばらくしてからです」
「どの程度」
「ああ、朝食を済ませ、お茶を飲みに出たときです」
「朝の喫茶店ですか」
「そうです。そこでコーヒーを飲みながら、昨日のことを思い出します」
「いろいろあるでしょ。昨日は近いので、思い出すことが」
「一つでいいのです。一つで」
「それはどうして選ぶのですか?」
「真っ先に思い出したものです」
「それが、今日を生きるヒントなのですか? 漠然としたヒントですねえ」
「ヒントは漠然としている方がよろしい。ちなみにあなた、昨日のことで、何か思い出せますか」
「はい、簡単ですよ。風で自転車のペダルが重かった。向かい風が強かったのです」
「ほら、ものすごく使いやすいヒントじゃないですか」
「そうなんですか。これが今日を生きるヒントになるのですか」
「その状態をあなたがどう受け止められたかです」
「受け取るも何も、風が強い日だったのです。そういう日もあるなあ、程度です。それ以上、何かありますか」
「いろいろあるでしょ。その状態から何か思いつきませんか?」
「単純な思いつきですが、逆風だなあと」
「いいです。それで、決まりです。今日生きるヒントは逆風」
「いや、他にもいろいろ思いつきますよ。前カゴにカバーをしてましてねえ。これが帆のように風を受ける。だから、折り畳めるカバーにしたい。頑張ってボックス型を買ったのですが、逆風のとき、もろに受けるのですよ。また、私の自転車、変速機がない。三段変則でもいいから、軽いのが使えれば、もう少し楽だったとかね」
「だめです。最初思い出したものが優先です」
「そうなんですか」
「そうじゃないと、きりがないでしょ。昨日の出来事の中で、一つだけ取り出すのもそのためです。真っ先に思い出したもの、真っ先に思いついたもの、これがいいのです」
「では、今日のヒントは逆風だとして、それをどう使うのです」
「今日は逆風なので、そう心得て一日生きるのです」
「え、今日は風は強くないですよ」
「その風ではなく、世間からの風当たりです」
「ああ、はいはい。心得置きます」
「ただし」
「はい」
「有効期限は一日です」
「じゃ、毎日生きるヒントが変わるわけですな」
「まあ、日めくり暦に書かれている名言のようなものだと、解釈してもかまいません。それのオリジナル版です」
「それは何という行事ですか」
「行事と言うほどではなく、運勢、占いのようなものです」
「何という」
「一日単位なので今日様占いです」
「あ、はい」
 
   了
 



       


2015年1月24日

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