小説 川崎サイト

 

雨男

川崎ゆきお


 雨の降る日は人出が少なくなる場所がある。屋内でもそうだ。家からずっと屋根が続いており、傘など差さなくても行ける場所なら別だが。たとえば屋根のある駐車場、地下でもいい。そして目的地も屋根のある駐車場なら、濡れることはない。ただ、そんな条件のそろった場所は滅多にないし、行き先により、そんな屋根は期待できない。
「今朝は出席率が低いようですなあ」
 毎朝喫茶店で集まっている年寄り達の会話だ。
「山田さんは雨なら来ませんよ」
「そうでしたなあ」
「大黒さんは半々です。降り方にもよります」
「そうでしたか。あの人は晴れていても来ない日があるので、雨とは関係ないのかもしれませんぞ」
「ああ、なるほど。しかし、この喫茶店、雨だと客が少ないです。やはり雨の影響は大きいと見るべきでしょう」
「私なんて、台風が来ていても、傘が差せれば来ますよ」
「他の人は雨で濡れるのがいやなんでしょうかね」
「それもありますが、雨の日は出たくないのでしょ。気分も低気圧ですしね」
「そうですねえ。今朝のような真冬の雨は冷たいです。それに湿気が強いので、体もだるいですし、やはり元気が削がれますよ」
「身を削ってまで来るようなことじゃないですからなあ」
「そうですねえ。これが仕事なら、雨でも雷でも行きますがねえ」
「まあ、天気の悪い日、うろうろするのは体にも悪いんでしょう。雨の日、持病が出る人もいるでしょうから」
「そうですなあ」
「私は多少体調が悪い日でも来てます」
「そうですか。私も風邪程度なら、来てます」
「しかし、今朝はどうやら二人だけのようですなあ」
「まあ、雨を押してまで来るような集まりじゃないですしね」
「はいはい」
 雪に強いので雪男。雨に強いので雨男。というわけではない。
 
   了
 

 
 



       


2015年1月26日

小説 川崎サイト