小説 川崎サイト

 

悪夢祓い

川崎ゆきお


 インチキだとは知りながら豊中は祈祷師宅を訪れた。普通の家だ。しかも古く、建て付けも悪そうな。そんな感じの家並みは年々減り、すっきりとした家に建て替えられている。祈祷師の家も時間の問題で、隣の家は二階建てになり、屋根裏部屋でもあるのか、屋根がとんがっている。合板で箱を組み建てたような家だ。
「悪夢です」
 豊中は祈祷師の老婆に話す。
「毎晩悪夢を見ます。だから、夜が怖くて仕方ありません」
「はいはい」
「一日を終え、やっと休める時間に、一番きついことになるのです」
「安眠できないわけですな」
「それなりに眠っているのですが、怖い夢を見て、すぐに目を覚まします。そしてまた怖い夢を続けて見たりします」
「どんな夢ですかな。悪魔でも出て来ますかな」
「見知った人達が怖い状態で出て来るのです。友達や家族も登場しますが、ひどい目に合わされたり、いやな目に合います」
「夢の中でですね」
「そうです。実際にはそんな怖いことをするような人達じゃないのです。これは、それらの人達の本心が出ているのでしょうか」
「さあ」
「悪夢を見ないお祓いのようなものはありませんか」
「悪夢祓いは昔からあります。一番簡単なのは敷き布団の下にハサミとかカミソリとかを置くことです」
「そう言う迷信ではなく、もう少ししっかりとしたお祓いのようなものをやってもらえないでしょうか。昼間、仕事で辛い目に合い、やっと寝床で安らごうとしているときに、悪夢では休まるときがありません」
「悪魔祓いではなく、悪夢祓いですな」
「そうです」
 祈祷師はチリハライのようなもので、豊中の頭を何度も祓った。
「これでだめなら、何ともなりませんがな」
「はい、それで結構です。悪夢が祓えたと信じるようにします」
 その夜も豊中は悪夢を見た。
 そのうち悪夢に慣れてきたのか、それほど怖くなくなってきた。夢の内容が似通っており、パターンを覚えたからだ。
 
  了

 
 

 
 
  


2015年1月29日

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