小説 川崎サイト

 

忌み地

川崎ゆきお


 怪しい場所には怪しい人が来る。まるで吸い寄せられるように。しかし最近出歩く人が減ったのか、ただの寂しい場所になっている。そこは聖地的な密度の高い一角で、聖なる空気が流れている場所だとされているが、これは最近言い出したことで、一時は訪れる人が多くいたが、そのブームもすんだようだ。そこは町の谷間のような場所で、実際高低差がある。岡と岡とに挟まれたような場所で、渓谷と言うほどの高さはないが、細く狭く延びたその一角は、妙なものの通り道ではないかと言われている。だが、ある人によると、ここは悪いものの溜まり場だとも言い、またある人は、昔はゴミなどが捨てやすい場所だったので、一時はゴミ捨て場だったとかも。
 実際、そこにあるのは石仏や祠。崩れかかったようなお堂や、鳥居だけが残った神社跡とかだ。一方の岡と一方の岡とは別の村だったらしい。その渓谷、裂け目のようなものが境目となっている。
 当然そこには深い川が流れている。幅は狭いのだが深い。昔はここで子供が泳いでいたようだが、今は柵がされ、立ち入れない。
 そして、一番濃い場所が、その川の縁で、そこに横穴があり、小さな鳥居や石が積まれている。その横穴、岡の真下を貫いているのだが、結構長い。ただ、自然にできたものではなく、水道のようだ。この川の水を岡の下を潜って、向こう側の田畑に引くための。
 しかし、今は地形が変わったのか、川底が深くなったのか、大水でも出ないかぎり、その洞窟の高さまで、水は来ない。
 その水道。もう水は来ないのだから、隧道だろうか。しかし岡の向こう側へ出られるわけではなく、途中で埋まってしまったのか、通り抜けられない。
 そして、その行き止まりのようなところに、宮さんと呼ばれる祠があり、そこに荒削りの石仏が座っている。等身大だ。
 ここが聖なる場所として、ある時期賑わったが、今は寂れた。だから、ブーム前の昔に戻ったのだ。平野部にできたちょっとした谷なのだが、周囲はふつうの住宅地で、お金を落とすような仕掛けができなかったのだろう。
 怪しげな場所だったので、怪しげな人がよくうろうろしていたのだが、今は誰も寄りつかないような忌み地となった。本来の場所に戻ったわけだ。
 今は、この土地に長く住んでいる老人が、たまにお参りに行く程度だ。ただ足場が悪いので、よく転ぶらしい。
 
   了



 
 


2015年2月3日

小説 川崎サイト