小説 川崎サイト

 

虫の情報

川崎ゆきお


「最近というか、気が付けば、情報が減りました」
「情報が選った?」
「そうです。必要な情報がいつの間にか減っていました」
「どうしてでしょうねえ」
「きっと、やることが減ったのでしょう。若い頃は勉強のための教材や資料などを長く持ってたのですが、かなり前に捨てました。進路が違ったためです。でも最近までネットで最新情報をチェックしたりしてました。それをコピペしたり、ブックマークを付けたりして、結構な量になっていました。今はそれもしなくなったのでね。そんなことが他にもありましてね。使わない情報は捨てるしかありません。でも、頭の中に残っているんでしょうねえ。思い出として」
「つまり、昔やられていたようなことは思い出の中に仕舞われると」
「そうですなあ。年々興味の対象も限られてきましてね。必要な情報なんてちゃんちゃらおかしく思えるようになってしまいましたよ。後生大事に溜めていたデーターも、使う用がなければゴミです」
「じゃ、さっぱりとしていていいじゃないですか」
「さっぱり、すっきりです。重い荷物を背負っていたような感じで。この荷を降ろすと楽になりました」
「最近はどういう情報がいいですか」
「まずは天気情報ですなあ。これは役立ちます。その後は動画のチェックです。これはですねえ、昔の映画などを見るためなんです。今のは駄目です。付いていけません」
「昔の映画ですか」
「懐かしの歌謡曲でもよろしい。こう言うのは情報とは言わないでしょ。見た映画や歌などをデーター化しても仕方ありませんからね。見たらそれで終わりです」
「しかし、先生は長年蓄積されていた資料があるとか」
「そんなものはありませんよ。大事なことは情報化しないのです」
「ほう」
「誰かの情報を鵜呑みにしてはいけません。まあ、これは定番ですがね。情報は自分で得ないといけません。ところが自分で近寄れない情報、得られない情報が多くあります。だから、それは信用していいのかどうかが分からない。そんなものをいくら集めてストックしていても、信用ならんと言うことです」
「ご自身で集めた情報も、怪しいのでは」
「痛いところを突いてきますなあ」
「痛いですか」
「そうなんです。自分の足で得た情報、自分の目と耳で得た情報も、怪しいことがあるのです。だから、それらを後生大事に溜め置いても仕方がないのですよ。だから、本当に大事な情報は情報化しない」
「情報って、何ですか」
「お知らせです」
「町内のお知らせのような」
「まあ、回覧板のようなものでしょ。大事なお知らせのことです」
「じゃ、虫の知らせもお知らせなので、情報ですね」
「出所が問われるところです。相手は虫ですからね」
「虫ですか」
「虫の知らせはインフォメーションですが、これは神妙なことなので、信憑性はありません。しかし、こういうお知らせは意外と当たるのです」
「そちらへ行かれましたか」
「情報を減らすと、そちらの方の能力と言いますか、精度が上がるようです」
「勘でものを言っているようなものでしょ」
「勘は自発的でしょ。虫の知らせは外から来るお知らせです」
「それで、先生の最近の研究は、そちらへ向かわれたのですか」
「そうなんです。これは勝負が早いです」
「シンクロニシティー,共時性のことですか」
「これは情報としては反則です。やってはいけないことです」
「でも情報とは大事なお知らせなんでしょ」
「そこが共通しています。使い方は同じですが、これは神秘の世界ですし、個人の感性で結びつけないと出て来ません」
「妙なことを始めましたねえ」
「いえいえ、よく考えると、子供の頃からやっていましたよ。忘れていただけです。それにこれは間違いがあったとしても、特に被害はないのです。観察しているだけなのでね。あの虫の知らせは、これだったのかと、思い当たること、しばしです」
「はい、もうそちらへ行かれたのなら、ご自由に」
「黄金虫が知らせてくれましたので、そちらへ向かいます」
「ああ、残念です。先生のような人が神秘へ走るとは」
「世の中は神秘で満たされています。それに最近気付いただけです」
「はい、またお邪魔します」
「どうぞ、どうぞ」
 
   了
   



 
 


2015年2月4日

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