小説 川崎サイト

 

ドアの前の夢

川崎ゆきお


 夢の中に出てくる人物がいる。知らない人ではなく、友人知人達だが、その様子はかなり違っている。キャラが違ってしまっている場合もある。そういう人ではないような。
 しかし、そういう人だと思っていただけかもしれない。といっても夢の中に出てくる人物の方が本当の姿が再現されているとは思えないので、これは、薄々気付いているようなことかもしれない。その気付きを抑圧した……と夢判断では判断されるだろうが、その判断が正しいかどうかは分からない。これは抑圧などしないで、つまり、そういう面もあるだろとは薄々気付いている場合が多い。
 吉田は夢の中で旧友と一緒にその旧友の部屋を訪れた。しかし中に入るドアのところで、夢から覚めた。その友人宅へ泊まりに行ったのだ。しかし、友人がドアを開け、一緒に入ろうとしたとき、携帯がなった。それで、入るのをやめた。その携帯の相手は夢の中では誰だか分からないが、そちらの方が好ましいと感じたからだ。つまり旧友の部屋より、携帯の人物の方を選んだことになるのだが、そのことを旧友は了解しているようだ。吉田は何処にも泊まるところがなければ、この旧友宅に泊まっていた。その夜は、その状態だったのだろう。出先のようだが何処だか分からない。
 それで目が覚めたのだが、吉田とその旧友との関係が気になった。もう付き合っていないので、出合うことはないのだが、道ばたでばったり出合えば会話ぐらいするだろう。別に仲違いをして疎遠になったわけではない。年を取ると、あまり友達と遊ばなくなるためだろう。さらに進むべき道や世界も離れていき、話も合わなくなってきていた。
 そして今、吉田が思うところでは「悪いことをした」という念が強い。それは付き合っていた頃から感じていたことなのだが、遠く離れてみると、そのことが気になったのだろう。
 その夢の中に出てきたドアは吉田が昔、借りていたアパートのドアだ。だから自分の部屋なのだ。ところが旧友宅となっており、そこに入ろうとしていた。これは何を意味するのかは分からないし、またそんなシーンは一度もなかった。あるわけがない。旧友が吉田の部屋に案内するようなことはどう考えてもあり得ないのだから。
 夢はとんでもないシーンを作り出す。それが問題なのではなく、そのシーンに意味があるのではなく、その解釈に意味がある。それで吉田はこれをどう解釈するか、起きてしばらくの間、考えた。
 すると出た説明は、旧友は吉田に反感を抱き続けていたことだった。これは気付いていたのだが、無視していたのだ。
 ドアの前で携帯がなり、そちらへ行くことになったときの旧友の表情は特に変わった変化はなかった。客を取られたわけではないが。
 しかし、待てよ。と吉田は考えた。もしかすると、その旧友、ほっとしたのではないかと。つまり、泊めなくてよかったのではないかと。だから、その携帯で助かったと。
 吉田と違い、旧友は朝の早い仕事をしている。だから、夜更かしになる。寝るまでの間飲んだり食べたりするだろう。だから、旧友にとっては迷惑なのだ。
 さて、それらはすべて夢の中の話で、そのドアの前のようなシーンは、一度もなかった。
 この同じ夢を、その旧友も見たとすれば、どう解釈するだろうかと、吉田は考えた。
 
   了
 


   


2015年2月7日

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