小説 川崎サイト

 

紅梅と黄梅

川崎ゆきお


 冬の真っ只中、真冬だが、梅の花が咲いている。山里の梅ではなく、梅園の梅でもなく、梅林でもない。町中の住宅の塀沿いの鉢植えだ。その梅は濃い紅色。他にも庭木として植えられている梅も満開で、こちらは黄色い。同じ黄色い梅が他の家の庭先にもある。しかし、鉢植えの梅は紅い。
 高梨は、この鉢植えの梅だけが紅いのが気になった。庭先の黄色より目立つためだ。そしてその気になって町内をウロウロしていると、黄色い梅ばかりで、紅色がない。それで困るようなことはないのだが、紅色の梅の方が多いと思っていた意識を変えないといけない。別にそんな意識を変えてもあまり意味はないが。それに偶然見付けた梅の木が黄色いものばかりだったのかもしれない。別の町へ入り込めば、紅梅ばかりだったりする。そして黄梅が珍しいと。
 高梨は町内を結構歩いている。その範囲も広い。最初黄色い梅が咲いているのに気付かなかった。黄色い葉っぱだと思っていたのだろうか。それが梅の木であることを知ったのはかなり近付いて見たときだ。花びらが小さい品種、小梅のようなものかもしれない。梅は紅いと決めつけていたので、黄色いものを見ても、梅だとは思わなかったのだろう。それからは黄色い梅を意識するようになり、何カ所かでそれを見た。そして、紅い梅は二軒先の家の塀沿いにあった。例の鉢植えだ。非常に近いところにある。そして、町内のかなり広い範囲を歩いても、紅い梅はなかったのだから、灯台下暗しだろう。ただ、梅を探し続けて生きているわけではない。ある日、黄色い梅を見付けてからだ。
 どちらにしても住宅地の庭にある庭木としての梅だ。これは植木屋か園芸店で買ったのではないかと思える。ホームセンターの植木コーナーにもありそうだ。
 高梨は子供の頃、春先花屋で小さな黄色い花を咲かせる木を買っている。一メートルほどあっただろうか。それを抱えて持って帰り、玄関前に植えたことがある。それを思い出したのだ。それは梅ではないが、小さな黄色い花を咲かせる木で、その木を思い出したのだ。さらに近くにある畑の畦道に小梅が植えられていた。結構古い小梅で垣根のように並んでいた。背は低い。その下に苗が出ており、それを引っこ抜いて持ち帰った。小さいわりにはかなり根を張っており、なかなか抜けなかった。最後は根を切った。その小梅は庭に植えた。そして紅い花を山盛り咲かせた。小さな実がなり、食べることができた。
 その当時は紅い花の咲く梅は方々にあったのだが、最近は見掛けない。故郷へ帰れば、紅い梅の方が多いはずだ。しかし、今住んでいる住宅地では鉢植えの小さな梅だけが紅い。
 当然、それは狭い範囲しか移動していないので、偶然見掛けないだけなのだろう。そう言えば白い梅も見ない。いずれも誰かが個人的に植えたものなので、その偶然が重なっているだけのことだろう。
 
   了


   


2015年2月11日

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