小説 川崎サイト

 

三つ切れる

川崎ゆきお


 下村は夜中よく起きる。途中で目が覚めるのだ。その理由は分からないが、トイレに立つことが多い。それで寝る前、水分を控えているのだが、あまり効果はない。逆に多く飲み過ぎた日でも、朝まで眠れることがある。これは滅多にないが。
 寝入ってから一時間半とか、二時間とか、そのあたりで起きることがある。それを通過すると、朝方目が覚めるが、まだ起きる時間ではない。そういった時間を覚えているのは、壁時計を見るからだ。寝床からは一番離れた壁にあるため、丸く大きな時計にしている。眼鏡をかけなくても、長針と短針は見えるし、文字も何となく分かる。数字は読み取れないが、角度で分かる。
 夜は明かりを消して寝る。それでも外光が入ってくるようで、真っ暗闇ではない。ただ、その状態では時計は見えない。布団から一歩出ると、足元もよく見えない。しかしそこは我が家で、おおよそのことは分かるので、かすかに見える柱とか、家電の小さなランプなどが目印になる。実際にはそんなことをしなくても、スタンドを付けることで、歩くときは問題はない。そのスタンドは枕元程度しか照らせないほどワット数は小さいのだが、それを時計の方に向けると、かすかながら時計の針が見える。そんなことをしなくてもデジタル文字の明るい置き時計にすればいいのだが、スタンドの明かりで針の角度で見るアナログの方が早い。さらにトイレに行くとき、そのスタンドが役立つ。
 そのスタンドが切れたのだ。付かなくなった。これはいきなりではなく、徐々にだ。指センサーのようなボタンを押すと音がする。これは電気が来ているので、音が鳴る。それを押しても付かないことがあった。そのときは蛍光灯の管を押すと付いた。しかし、一ヶ月ほどで、その管を押しても付かなくなり、強く押したり、少しひねったりすると、付くが、もうそろそろだった。
 その蛍光灯の管を取り出すと、一本を途中で折り曲げている。見た感じは二本あるが、一本だ。グローは付いていない。管の端を見ると黒い。もう寿命なのだ。時計を見るときだけ、トイレに立ったときだけ付けていたのであまり使っていないのだ。だから、これを買ってから一度も交換したことはない。
 スタンドが故障状態のままの一夜が来た。そして途中で目が覚めた。これは寝付いてから一時間後なのか、朝方なのかは分からない。前者なら、また眠ればいい。尿意はそれほどないので、眠れるだろう。しかし、後者だと起きないと遅くなる。ただ、朝方だったとしても、二三度起きてしまうことがある。早い目の朝なのか、丁度の朝なのかが分からない。丁度なら、今起きるべきだ。そして、あまり眠くはない。もっと寝ようとする気は不思議と起こらないので、これは朝に違いないと下村は判断した。
 そして、天井にある部屋の蛍光灯を付けた。時計は丑三つ時前。眠ってすぐではないが、夜中で、これはまずい。立ち上がって電気を付けたため、もう完全に目は冴えている。起きてしまったのだ。
 せっかく起きたのだからトイレに行く。そして、戻ってからもう一度近くで壁時計を見る。秒針が回っていない。電池切れなのだ。
 スタンドの電気、時計の電気、両方切れたのだ。
 そして、ケータイで時計を見ると、時間は朝を書き込んでいた。朝までぐっすりと眠ったことになる。だから、起きても眠気がなかったのだ。
 その日、下田は蛍光灯の管を買いに家電店へ行ったが、二種類ある。一本を折り曲げて二本のようになっているタイプだ。二十センチほどだと指で確認していたのだが、どちらも二十センチ前後だ。ワット数が書かれているが、確認していない。指でおおよそ確認しただけだ。長い目の二十センチと、短い目の二十センチのが並んでいた。この二つが一番近い。あとは短すぎるか長すぎる。
 長さ違いでは仕方がないので、下村は買わずに戻った。
 スタンドのない二夜目が来た。
 そして、目が覚めた。時計の電池は入れているので、問題はない。何時かを知りたい。夜中なのか、朝方なのか。そして眠気は結構ある。夜中に近い。
 そう思いながら、下村は部屋の蛍光灯を付けた。
 だが、付かない。こちらも切れていたのだろう。都合三つのものが切れていた。重なるときは重なるものだ。
 
   了



 


   


2015年2月14日

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