間が悪い
川崎ゆきお
間の悪い人がいる。これは一人で何かをやっているときは、あまり関係はない。やはり人と関係しているときに、間の良さ、間の悪さができる。間の良い人は相手が何を望んでいるのかが分かる人だろう。間の良い人はそれが分かる。ただ勘違いは当然あるが、これは文脈で見ているので、ただの勘ではない。
相手が今何を考えているのか、思っているのかを読める人はストーリーやキャラが読める人なのだ。その流れの中で読みとるのだろう。話の展開上、次はこれが来るはずだとか。
これを勘の良い人とも言う。しかし第六感かどうかは分からない。いきなり読めるのではなく、想像すれば出てくるのだろう。だから、直感のような勘ではない。全体の中の部分を知っているため、エピソードが読めるのだ。しかし、それは流れとして見ているだけで、動きを見ている。静止したものではなく、動体を。
相手が欲しがっているものを与えると、相手は喜ぶ。その反対に、相手がいやがっていることをすると、いやがる。これは当然何となく分かっているのだが、それまでのストーリーやエピソードを参考にした想像だけに、違うこともあるのだが決めつけてしまうこともある。相手はこう思っているはずだと。そうなると、勘所を見失う。しっかりと相手のストーリーを把握していないためだろう。自分に都合のいい展開で相手のストーリーをこしらえてしまうのだ。
気が利くとか、よく気が付くとか、そういう人がいる。これも相手が欲しがっているもの、望んでいるもの、またその逆のものを知っているからだ。それを分かった上で、今はどうなのかを、ちょっとした反応で読みとる。
そういうのは何も分からなくても、01式のように分かることもある。それは相手の顔などの反応で読みとることだ。これは分かりやすいが、表情と気持ちが一致しない人もいる。
間の悪い人は、今言うとだめだというときに、言ってしまったりする人だ。タイミングが悪いのだ。しかし、それは欠点ではなく、強引に話を進めていく豪腕タイプとして長所にもなる。そんな間合いやタイミングなどと言った細かいことは無視し、事を進める。
「間が悪いと」
「はい、そう言われます」
「じゃ、君は豪腕タイプだ。気にせずどんどん押し進めればよろしい」
「いや、僕は細腕で、そんな勇気はないです。相手の顔色が変わるのを見るのが、怖くて怖くて。それに妙な顔や不愉快そうな顔をされるのがいやなので、相手の喜ぶようなことしかしません」
「そのタイプなら、間も何もないでしょ」
「相手の気持ちが痛いほど分かるのです」
「では、相手が何を欲しがっており、何をいやがっているのかも読めるのかね」
「はい、おそらく。だから、見えすぎて、何も言い出せません」
「しかし、相手が喜ぶことなら、言えるでしょ」
「でも、それでは相手ばかりが得になり、僕はどんどん損をします。譲ってばかりです。もう土俵際いっぱいまで寄られています。幸い徳俵で踏ん張っていますが、それも限界です」
「何かよく分かりませんが、まあ、そんなものでしょ」
「そうあっさり、言われても」
「要するに、あなたは神経質なほどものがよく見える。それが言いたいのでしょ」
「それが欠点でして」
「違うでしょ。欠点ばかりを大げさに言ってますが、それで得したことを隠していますね」
「いえいえ」
「間が悪いと自分自身で語る人は間が良いのです。だから、間が悪いことが分かる。間が悪い人は、それすらも気付かない。そういうことです。だからあなたは間が良い人なんですよ」
「間違いというのは、間に関係しますか」
「あなた、それ分かっていて聞いているでしょ」
「凄い先読みですねえ」
「お互いに、読めすぎるのも間が悪いということでしょ」
「あ、はい。気まずいです。ばつが悪いです」
了
2015年2月15日