小説 川崎サイト

 

印象

川崎ゆきお


 印象に残るものがある。その前に印象を受けるものがある。それを記憶するから、その印象が印象として残るのだろう。印象を受けやすい現象がある。誰が見ても印象的なものだ。ただ、残るかどうかは分からない。それは離れるからだ。その印象から。
 そのため印象に残る現象は据え置かれたようなもので、ちびちびあとから思い出したり、考えたりするような事柄で、長く温存される。つまり、その印象はあとで使えそうな何かがあるので、残しているのだろう。自分で決めて残すのではなく、勝手に残るのだが。つまり何か引っかかるものが多いのだろうか。
 それらの印象は個人により違ってくる。当然だろう。ただびっくりしたり、驚いたり、うっとりとしたり程度なら共通しているが、長くとどまる印象ではない。それ以上の関わりがないためかもしれない。
 個人が受ける些細な印象。驚くような、はっとするような印象でもいいが、これは受ける側に用意のようなものがなければ、受け取れない。ここは個人的な話で、その人の記憶の中の何かと絡んでいるに違いない。そうなると、もう一般的な印象ではなく、固有の、任意の印象となる。ものによれば、その人にしか伝わらないような印象だ。これは見知らぬ人を見たとき、印象に残る人の多くは、何処かで見たことのある顔か、それに近い顔だ。特にその顔が特別目立つような顔ではない場合での話だが。
 自分の見知っている人と似ている。これだけでその見知らぬ人から見知った人の記憶が呼び出される。その見知った人との関係、ドラマややり取りが思い出される。当然、顔立ちが印象深い人ではない。しかし、見る側の記憶などから照らし合わせて、印象深い人に見えてしまう。
 印象とは、精神的なものだ。そうなると、個人の中では、やり放題だろう。事実関係ではなく、精神的な面での物語のためだ。これは好き嫌いなどが当然含まれる。
 というようなことを田村は初対面の人に話した。第一印象が悪かったのだろう。田村の見知っている中に、目の前にいるこの初対面の人が似ていた。顔が似ているだけではなく、喋り方も似ている。その人の印象がよくなかったのだ。つまり田村は精神的にいやな目に合った人と重ねた。
「それは誤解です。そんなイメージで見ないで下さい」
 相手は当然、そんな理不尽な話になるとは思っていなかった。いきなり印象が悪いと言われたからだ。しかも本人ではないのに。
「いや、そうじゃない。あなたのような人とは相性が悪いんだ」
 田村は、子供のように立ちがあり、席を離れた。
 一人残されたその男は、口では言わなかったが、田村と同タイプの人間を知っており、いやな目に合ったことがある。先に言われた感じだった。
 やはり印象の悪い組み合わせがあるのだろう。食い合わせのような。
 
   了






 

 


2015年2月18日

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