小説 川崎サイト

 

人と場

川崎ゆきお


「場所は大事です。その場所にその人がいるのか、そういう人がいる場所なのか、これは両方かもしれませんが、その場にふさわしくない人も紛れ込んでいることもあります」
「場所って季節にも関係するでしょ」
「します。大相撲の春場所や秋場所などね。ただし場所は違います。名古屋場所もあれば大阪場所もあります。だから、地理的な場所も変わります」
「花見の場ってのはどうです」
「同じ場所ですが、桜が咲いていることで、場ができます。だから、この場合、花が場を作るのであり、人が花見ということで場を作る」
「私は場違いなことをよく言います。だから、こんな場で言うなと叱られたりします」
「場所柄をわきまえよ、というのもありますなあ。時と場が揃わないとできないこともあります。これは効率の問題かもしれませんがね」
「はい」
「それよりも、私が興味を持っているのは、場所が先か人が先かです」
「ややこしい話ですねえ。実用性、ありますか」
「ありません」
「はい」
「ある場所に、ある人がいる。すると、それを見た人、場所じゃなく、人をです。その人が、そこにいるのだから、私もいてもかまわないだろうと思うことがあります。この場合、似たような、ある共通性があります。年齢層とかが一番分かりやすいです。当然性別も。そして、何人かに増えたとき、来るべき人たちがやはり来ている。場違いじゃないようなね。しかし、ここではもう場所じゃなく、集まっている人たちの品種、植物や馬じゃないですが、それを見ているのですね」
「そんなことは考えたことありません。用があるから、その場所にいるだけでしょ」
「本当に用があるのならね。そうじゃなく、大した用でもなく、また、しなくてもいいような非実用な用のとき、非常に趣味性、好みが高まります。ふるい分けているのは、好き嫌いだったりする。だから、そこに嫌な人が多いと、入りたくない。尺度が好みの問題になっていますからね。好もうと好まなくてもやる用事じゃないですから」
「繊細な話ですねえ」
「だから、実用性はありません」
「はい」
「場所替えとは、人替えでもあるのです」
「いやいや、もうそう言うお話は分かりにくいので、その辺で……」
「こういう話をこういう場でやると、馴染みません。この場を否定しているようで」
「ここはまずいですか」
「はい、この場所がまずいのではなく、ここに来ている人たちがまずいのです。曲者ぞろいですからな」
「曲者力士がいますねえ。何をするか分からないような業師」
「やられます。だから、私は、明日からは来ません」
「それは残念な。僕はあなたがいるから来ていたのですよ」
「場所替えしましょう。私が新たな場を探してきますから」
「はい、よろしくお願いします」
 
   了
 
 


2015年2月22日

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