小説 川崎サイト

 

円墳の怪

川崎ゆきお


 平地にある城下町だが、町そのものが一種の要塞のようになっている。といっても少し地面が盛り上がったところに限られる。城下まで攻め込まれれば、それで終わりだろう。結局城を裸にするため、燃やしてしまう。その岡の外れに古墳がある。岡の端、城下町の入り口付近だ。岡の上にさらに岡がある感じだが、それほど背の高い古墳ではなく、ただの円墳だ。その規模の古墳なら日本中至る所にあるだろう。
 この古墳は人の家の庭にある。周囲も家の裏側で、古墳に行くには家と家の隙間の狭い路地を通らないといけない。当然そこは私有地で、家と家の余地だ。垣根で区切っていないだけ。
 この一帯は古い家が残っているが、城下町時代の名残はそれほどない。あるとすれば、この古墳で、ここが城下への入り口だったため、砦となっていた。その古墳の名と同じだ。当然城下町ができる遙か昔からあった場所で、古墳が先だ。
 この古墳、発掘はされていない。この地方の豪族の墓は既に見つかっており、規模も大きい。どんな豪族だったかは、発掘されていないので、分からない。一度試みられたが、作業員が熱病で倒れた。その周辺に住宅を建てるとき、それらしいものが出てきた程度だ。すぐに埋め直され、住宅が建った。
 大きい古墳でもその程度の町なので、城下町にある小さな円墳など、手付かずのままだ。それに場所が悪い。古墳でもあり砦跡でもあるが、それほど価値はないようだ。
 しかし、古くからの言い伝えがあり、埋葬されているのは異国の人。これも古代から渡来人は多く来ているので、珍しくはないが、もっと西の人だ。つまりアラブ系で、ペルシャ人ではないかと言われている。これも奈良に都があったとき、ペルシャ人もいたようなので、珍しくはない。その墓が誰なのか確認できたとしても、まあ、言うほどのことではないだろう。だが、言い伝えでは術師らしい。アラビアの呪術師ではなく、ペルシャ人が召還した魔神らしい。
 これで、話の筋は立った。要するにアラジンと魔法のランプなのだ。そのランプが埋まっているという。だから、魔神はそのランプの中に封じ込めれていると。だから、ペルシャ人の墓ではなく、魔神を封じ込める装置だと。
 この言い伝えを聞いた古墳と接した安アパートに住む子供が、毎朝のように、白い煙が立つのを見た。時間にして数分。長い場合もある。今にもその煙か湯気のような白いものが、魔神の形になるのではないかと、アラジンのように期待したようだ。これは古墳の向こう側の家の台所と接していて、そこのお爺さんが、早起きして、毎朝サツマイモを蒸かして食べていたことで、解決している。紛らわしいことをするなとは言えない。
 今もこの古墳はあり、その頂上に、ぽつりとお稲荷さんが建っている。超常現象は大昔も今も、起こっていない。
 
   了
   
  
 
 


2015年2月24日

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