小説 川崎サイト

 

廊下で見た

川崎ゆきお


 夜中に起きるが、時間が分からない。里中はよく夜中に目を覚ます。二度か三度で、四度と言うことは滅多にない。朝まで一気のときもあるが、殆どない。大概は二度ほどだ。寝入ってから一時間から三時間の間に一度目が覚める。早いときで一時間後、三十分後ということはない。これは別の事情、例えば物音がしたとか、そういう外からの影響が強い場合に限られる。時刻的には一時から二時が多い。一時半が一番多いかもしれない。だから、寝入った後、目が覚めた場合、一時半である可能性が一番高い。このときトイレに立つ。これは寝る前の水分とは関係なさそうだ。寝る前に用はたす。
 つまり里中は一時半にトイレに行く定期便のようなもので、これは殆どが日課になっている。だから非常に日常的な話で、変わった話ではない。次に起きてしまうのは三時か四時頃で、これは朝までの中間だ。これはない日が多い。
 その夜、里中はいつものように夜中に目が覚めたので、一時半だろうと思っていた。部屋は暗いので時計は見えないが、枕元のスタンドをつけると長針も短針も見える。それを見ないでも、いつもの時間だと思い、トイレへ向かった。部屋は暗闇ではない。窓が多い家なので、外光が差し込み、トイレへの道程度は見当が付く。
 里中は奥まった部屋で寝起きしているため、玄関近くにあるトイレまでの距離は結構ある。廊下に出たときにトイレの電球のスイッチがある。これが便利なので気に入っている。廊下が暗いためだ。廊下の電気もあるが、それをつけなくてもトイレからの光がきている。スイッチが三つ並んでおり、もう一つは門灯だ。これは寝る前に消している。
 スイッチのある場所からトイレまでの廊下で、里中は不思議なことを急に思いついてしまった。そんなことは滅多にない。今まで寝ていたので、いろいろなことを想像できるほど頭は冴えていない。
 里中の前を先に歩いている何かがあったような気がした。しかし、その何かが先にトイレに入った気配はない。ドアが開いた様子はないし、開けたのなら、開けたとき、音がする。建て付けが悪いため、軋み音がする。
 何が目の前を通過したのかは分からない。まさか自分ではあるまい。それだと幽霊よりも怖いだろう。
 里中はおそるおそるトイレのドアを開けた。電気がついているので、トイレ内は明るい。特に変化はない。
 用を済ませ、開けたままのドアから廊下に出たとき、誰かがいるのではないかと、廊下の奥や、左右を見たが、何もない。トイレに入る前に見た何かの姿はない。期待していたわけではないが。
 そして寝室へ戻り、布団に入ろうとすると、誰かが寝ているのか、掛け布団にボリュームがある。里中はさっとそれをめくったが、何もない。布団から出たときにできた偶然の膨らみだろう。
 気になったので、スタンドをつけた。部屋の中に変わったものはないが、枕元からの光源なので、いつもの部屋だが妙な光線状態になり、気味の悪い影が伸びている。そして、時計を見た。
 一時半。特に問題はない。
 
   了

 


2015年3月12日

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