小説 川崎サイト

 

妙術家

川崎ゆきお


「妙な場所を知りませんか」
「妙なねえ」
「不思議な、または奇妙な」
「さあ、何を指しておられるのかがよく分かりませんが」
「神秘的な何かがありそうな」
「謎がありそうな」
「そうです」
「ほう」
「ありませんか。あなたほど長く生きた人なら、色々ご存じでしょ」
「先に結論を言いますと、この世が一番奇妙で、不思議な場所ですよ。そして色々な神秘があり、謎だらけで、だからそんな場所を探す必要はありません」
「そんな深い話じゃなく、因習が残っているとか、訳の分からないものが祭られているとか」
「だから、それは何処にもあることでしょ。探さなくても身の回りにいくらでもある」
「だから、そうじゃなく、もっと具体的な形で」
「ほう」
「ありませんか」
「それは神秘なる現象ではなく、人が作ったものを指すのですかな」
「何でもいいのです。全員グルになっている村とか」
「グル」
「仲間です」
「ほう」
「その村に一本、道が通っています。でも通り抜けられない」
「行き止まりですかな」
「そうではなく、老婆が乳母車をついて歩いています」
「それが何か」
「だから、そういうことで遮るのです。行く手を」
「ただ、歩いているだけでしょ。道幅が狭いのですかな」
「作為的なんです」
「意味が分かりませんが」
「犬の散歩人が、ロープでも張るように、道を防いでいます」
「なぜ、そのようなことを」
「嫌がらせです。余所者に対する」
「そんな村はないでしょ」
「だから、そういった妙な場所はないかと聞いているのです」
「その村、ありましたか」
「ありません」
「そうでしょ。邪魔をする意味がないですからなあ。それにそんなことをする目的が分からない」
「だから、それは僕が今思い付いて言った例えですよ」
「あ、そう」
「ありませんか」
「答えは最初に述べましたでしょ」
「聞きましたが、やはり具体的な場所が欲しいのです」
「妙なものに興味を持つのは、その人が妙な人だからでしょうなあ。普通の人には何でもないようなものさえも妙なものに見えてしまう」
「そんな心理的な話じゃなく」
「申し訳ないが、あなたの期待に添えるような妙な場所など知りません。あしからず」
 しかし、この老人、妙術家としては有名な人で、奇妙なことについては天下一品だ。意外とこういう人ほど妙なことを語らないようだ。
 
   了



   


2015年3月20日

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