小説 川崎サイト

 

落下傘部隊

川崎ゆきお


 人には付いてまわった印象というのがあり、それが良い場合でも悪い場合でも、本人とはまったく関係のないことがある。生まれ育ち氏素性もそうだが、まったく関係はしないとは言い切れないが、必要以上に人に与える影響が強い。これはパターン認識してしまうためで、曖昧にしておくより、型に填めた方が落ち着くのだろう。観察者はそれで居心地がいいが、本人はたまったものではない。これはよくある先入観の話で、日常的に常にこのエンジンは稼働している。だから、お互い様なのだが、思わぬ誤解を受け、のっぴきならないことになる可能性もある。これが良い誤解で、良い展開になれば、いいのだが、そんな話は滅多にない。それに誤解されているとは思わないだろう。
 それよりも本人が一番納得できないのではないか。真実はそんなところにはなく、不本意な目に遭う。この誤解を解こうとすればするほど泥沼に填まり、その人が狡猾な人だと噂されている場合、弁解すればするほど狡賢い人間だと、さらに誤解される。
「いやいや、人間社会は誤解の上に成り立っているのですよ。誤解し合って当たり前。そんなことは気にする必要なんてありませんよ」
「しかし、誤解を解きたいのです。あんなことをする人間だと思われているのが、悔しくて、悔しくて」
「あなたならしそうですよ」
「学長までそんな誤解を」
「じゃ、しませんか」
「それはまあ、しないとまでは言い切れませんが、その前に理性で押さえ込みますよ」
「じゃ、その要素はあるのですね。それなら、誤解じゃない」
「ああ、はい」
「しかし、君は僧侶や警察官でなくてよかったよ。経理だ」
「え」
「まあ、ニュースになり、かなりの制裁を受けますからねえ。その後、何をしても、そういう人だと思われてしまいますよ。ずっとね。一生」
「しかし、今回は誤解です。決してその気はなかったのです」
「はい、信じましょう。今までその前歴はないようですし。データも一応調べましたが、その種の画像はまったくありませんから、そういった特殊な趣味はないと見ていいでしょ」
「はい、本当なんですから、信じてください」
「信じましょう。私の方が危なかったりしますしね」
「え、学長が」
「私がやった場合、ニュースに確実になります」
「そうですねえ」
「それに君より私の方が、そっち方面は開けていますから」
「大丈夫ですか学長」」
「要は、向きです。そしてあまり下の方で構えないことです」
「はい心がけます。でもババアならいいでしょ」
「婆さんの落下傘など見たくない」
「はい」
 
   了

 



2015年3月28日

小説 川崎サイト