二人の老人
川崎ゆきお
公園のベンチに座り、数本咲いているしょぼそうな桜を見ている年配の男がいる。通りに面した広い歩道だ。
「小山田君か」と、座っている小山田に立花が声をかけた。似た年代と言うより、同級生だ。滅多に顔を合わさないので、久しぶりのようだ。
「どうです。花見」
「ああ、ちょいと急いでるのでね」
「それはそれは」
「まあ、いいか」
「え、何がですか」
「一服しよう、灰皿もあるんで」
「そうでしょ、最近はここも歩行喫煙がうるさくてねえ」
小山田と立花は一人分隙間を空けて並んで座った。灰皿代わりのバケツを真ん中にして。
「仕事?」
「忙しくてねえ。しかし色々とあるよ」
「そうだね、仕事をしていると、色々とあるでしょうなあ」
「小山田君は、今は何も?」
「おかげさんで、何もしてないよ」
「それで、こんなところで、ぼんやりと」
「まあ、日課でね。こんなことをして、時間を潰しているようなものさ」
「少し厳しくなってきてねえ」
「え、何が」
「トラブってねえ。しかし、ここで踏ん張らないと、次の仕事に繋がらない」
「何の仕事? 今やってるの」
「一寸した中継役だよ」
「中継」
「相手と相手を結びつける。信用第一でね。しかし信用なんて、一寸した誤解ですぐに壊れる。これを何とかしたいんだけど、打つ手がない。余計なことをすると、逆にまた誤解されるしねえ。最近胃が痛いよ。睡眠不足だし」
「それは大変だ」
「まあ、仕事が好きだしね。金も入るし、それに部屋でごろごろしていたって仕方がない。あ、失礼、君のことじゃないよ」
「まあ、部屋ではごろごろしていないけど、外でごろごろしているよ。さっきなんか暖かいので、眠りしそうになったよ。流石に横になるとあれだから、座ったまま耐えたけどね」
「しかし、胃が痛いよ。全人格を疑われているようなものだから、いたたまれない。誤解なんだけどなあ」
「何か手伝えること、ある」
「ない」
立花は煙草を吸い終え、そのまま立ち去った。
小山田は胃は痛くならないが、尻が痛くなりだし、さらに眠くなりだした。
了
2015年4月6日