小説 川崎サイト

 

怪奇現象

川崎ゆきお


「最近夜中にふと目を覚ましても、怪奇は感じませんなあ」
「え、何ですか。怪現象が起こる住まいですか」
「いや、幽霊など出たことはありませんし、怪現象も起こったこともありません」
「でも、感じたのですね」
「そうなんです。夜中起きるのは殆どがトイレです。そこへ行くまでの間に仏壇の前を通ったりします。薄暗いです。電気は付けません。暗闇じゃないので」
「はい」
「何かいるような、何か気配のようなものの気配がしていました」
「気配の気配ですか」
「気配が起こるような気配です。そのときは起こっていませんが、起こりそうな気配がするのです。しばらくすると、その気配の中に入ります。これはもう何かおかしな世界と接触しているなあと思えるほどの気配です。しかし具体性は何一つありません。窓から入ってくる明かりが室内をわずかに照らし、そこだけ少し明るい。それが妙な形に見えたりとかね。これは毎回見間違いで、そこまで行って確かめると、ただの光線具合で、そんな形ができていたってことになります」
「実際には何も起こっていないわけですね。怪現象は」
「はい、そうなんですが、最近その気配さえしなくなりました」
「慣れたからですか」
「よく考えると、ホラー映画やドラマやドキュメンタリーばかりを見ていた頃によく起こっていました」
「そんなの始終やっていますか」
「ネットでやっています。それを何本も何本も続けて見ているとき、怪現象の頻度は非常に多かったのです。だから、原因はそれだと」
「なるほど、だからもうその怪現象は解決済みですね。そして、最近怪現象の気配がないのは、その種のものを見ていないから」
「はい、それが正解なのですが、ではどうして、怪奇物ばかり続け見ていたのかという話なのです」
「好きだからでしょ」
「それもありますが、他に見るべきののがないときは、ホラーものを見るようです。怪奇小説でもいいのですが、これは殆ど読んでしまいました。ただ、ヨーロッパの少し古い怪奇小説はなかなか手に入らなくて、これはまだ全部読んでいません。それ以上古い説話類は無視です」
「じゃ、やはり怪奇趣味があるので、読まれるわけですね」
「それに間違いはありませんが、他に見るべきものが、読むべきものがあるときはホラーものは脇に置いておきます」
「進んでまで見ないと」
「怪奇物に興味がいくのは調子が悪いときでしょうねえ。だから、調子の悪い、心身共ですが、そう言うときに続けて見るから、なおさら体調が悪くなり、怪現象の気配を夜中に感じたりするのだと思います」
「そこまで分かっているのですね」
「じゃ、なぜ怪奇物か、それは論外の世界、あり得ない世界に近いからです。その手はないというような。それはないというようなね」
「ほう」
「つまり、心身ともしんどいとき、まともな方法では解決しないような懸案や健康状態もあります。そんなとき、別の解決方法として、ホラーが来るのです。これは運命とか、呪いとか、因果とか、そちらへ持っていくしかないからでしょうなあ」
「それで、手詰まりになったときはホラー映画を見たりするわけですね」
「そうです。だから、最近怪現象の気配の気配さえしないのは、調子がいいのでしょうなあ。そのため、こういう奇妙な気配を楽しめなくなりました。残念です」
「そんなときに限って本物が出たりしますよ」
「そうなんですか」
「突然起こります」
「でも、怪現象の気配は待ち受けていないと、私、鈍感なので、出ていても分からない」
「あ、そうなんですか」
「だから、また不調な状態が続かないと、怪奇物に興味が湧かないので、見たり読んだりしない。そのため、夜中起きても、奇怪なことなど頭にはない。だから、夜中、窓からの光が妙な動きをしていても、見ようともしないでしょう」
「不調なことなど、すぐに起こりますよ」
「そうですなあ。これはいいことよりも多く起こりますから、その時期になれば、また怪奇を楽しもうと思います」
 
   了





2015年4月25日

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