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ガメラの出番
川崎ゆきお
「怪しいのは工場ですよ」
「ほう」
「工場の敷地内。これが怪しい」
「何が」
「妙なものというより、昔はしっかりとしたものだったはずなんですがね。まあ、墓ですよ」
「工場内に墓が」
「昔からあった墓ですよ」
「ああ、古墳」
「古地図に残っているような塚は別ですがね。ある程度開けた平地にある田圃のあった場所や山沿い。大きな工場なら、ごっそりと買い取ったのでしょ。当然塚があることが分かっていますからね、さすがに壊せない。だから、敷地内に残している。昔の村の墓などは、子孫が入れるように塀に工夫がある。敷地内だけど、工場内ではない。塀代がもったいないが、仕方がない」
「ありますよ。うちの近所にも」
「そうでしょ。墓参り程度は出来るようにね」
「しかし、それじゃ怪しいものが工場内にあるとは言えませんよ」
「だから、古地図に残っているようなものとか、土地の人が知っているものは別です。ところがあまり大きくない町工場、しかしそれなりに敷地が広い場合、さらに工事のとき初めて出てきたような遺構や遺跡、墓、塚、まあ、古墳規模なら、土地の人が知ってるはずなので、無理でしょうがね。しかし、古墳などが滅多にない土地などに、こっそり埋葬したかもしれません。そして、記録が一切ない。土地の人がそもそもいないような場所。これは古墳じゃ滅多にないかもしれませんよね。大体同じような場所に集まっている。昔からあり、大事にされている古墳でも、誰が眠っているのか、土地の人も知らないことも多いです。繋がっていないからです」
「それで、怪しい塚とは」
「海岸沿いの工場群は別ですよ。あれは埋め立て地だ。大昔は陸地だったら別ですがね。それでも埋めるでしょ。だから、海底にあっても分からない」
「怪しい塚の話は？」
「はいはい。まあ、工場内を外から見ても分かりますが、こんもりとした木が植わっている。これは分かりやすい。元々そこにあった何かでしょ。または、お稲荷さんを置く会社もあるでしょうが、村時代の神社跡が残っているだけでも怪しいです」
「怪しくないです」
「その場合、敷地内なので、もう塀の中。外の人はお参りに来れない。また、その規模じゃないとか。その氏神さんは、別のところへ引っ越したかです。だから、見た目は旧村時代の神社跡のように見えますが、もう無人。いや無神というべきでしょ。何も祭っていない社。これが怪しいのです」
「もの凄く、遠いところから、入っていくようですが」
「当然、本当に怪しいのも入っている。先ほど言ったように、旧村民も知らなかったものが､敷地内で建物を建てるとき、出て来たとかもある」
「それは細いです」
「可能性の問題だ」
「それは何ですか」
「密かに埋葬したものや、人知れず封印したようなものだ」
「来ましたねえ」
「町内にある見慣れた工場内、そこは意外と知られていない」
「でも何を封印していたのでしょう」
「まあ、それが解けて、大きな災いをもたらすってこともないとは思うけどね。怪鳥でも飛び出すのなら別ですがね」
「それなら、日本中で、そんな異変が起こり倒していますよ」
「そうだね、何か出て来ても、ややこしいので、届け出しなかったりね。気付かなかったことにして、壊していますよ」
「気が付かなかったと、塚なかったの洒落ですね」
「そうだね。塚なかったんだ」
「でも、何の塚だか分からないのに、塚の入り口のような地名が残っていたりしますよ」
「塚口とか、塚出とか、塚本とかね。それが何処の塚を差しているのか、見当が付かない場合、つまり近くにそんな塚や古墳がない場合、これは工場が怪しい」
「またですか」
「工場の敷地内に、あるんだ。いや、あったんだ」
「はいはい」
「そう言う視点で、中を隠すように建てられた工場の塀の向こうをご覧なさい。木が茂っているところが怪しいが、あれは、もう分かっているもので、建物の下が怪しい。それでね……」
「まだ、続きますか」
「その巨大な敷地の工場が閉鎖され、そして取り壊されることもある」
「近所にもありますよ。薬品メーカーや、菓子メーカーの大工場が」
「それで更地になったとき、結構下まで何かが染みている。地面深くまでね。まあ、汚れた土地になっている。そんなものすぐに上から盛り土してしまうだろうけど、このとき、出て来ますよ」
「何が」
「だから、封印されていたものがですよ」
「その封印は工場を建てたとき、潰したのでしょ」
「潰したが、工場が蓋になって、それが封印の役割をしていた。だから、取り壊された遺跡の地面は裸だ。この時期が一番危ない」
「はいはい」
「そのあと、また工事で、今度は巨大住宅群が建つ。高層マンション群だね。昔の村人の何十倍以上も住んでそうな」
「はいはい」
「高層マンション群や、何々タウンとなって、大手が作るこの種の物件、以前何があった場所なのかを知るのも大事だ」
「真下に遺構がまだ眠っていそうですねえ」
「そうだろ。それで、呪われたニュータウンになる」
「もう、分かりましたから」
「そうか、何が因果か分からないようなものが、世の中には渦巻いている」
「はいはい、お話しとしては楽しませて貰いました」
「怪鳥がそのうち飛び出す」
「じゃ、ガメラが退治してくれますよ」
「そ、そうだね」
了
2015年5月19日