小説 川崎サイト

 

猫のパンパンパン

川崎ゆきお


 都市郊外の山近く、そこに森林公園と呼ばれている場所がある。結構辺鄙な場所だが、便が悪いわけではない。公園の背後に山が立ちはだかり、その先にはもう人は住んでいない。都市近郊でも宅地化できないほど険しいためだ。山を削って宅地にするほどのことでもなく、ここら一帯は国定公園の一部でもあり、国有地でもある。
 春先になると賑わう。五月の名所でもあり、家族ずれがピクニックに来る。さらに近くに大学があり、昼休みなど、ここまで食べに来る学生もいる。さらに部活など使われる合宿所の建物もあったが、古い洋館のため、取り壊された。何の合宿だったのかは公言できなかったりする。今は公園近くの森の下で眠っている。
 さて、昼間ではなく、夜になると、ここは無法地帯になる。男女がここに入り込むためだ。見た目はアベックだが市街地の公園ではなく、誰もいないような森の中のため、歩いていている間に公園に出てしまったので一休みというようなロケーションではなく、わざわざここまで来なければいけないほど奥まった場所なのだ。市街地が果てる場所なので。当然、その先は山道だが、山を越えて、向こう側の町へ出られるわけではなく、ただのハイキングコースが続くだけ。
 見た目はアベックだが、女性の服装が女性っぽい。殆どはスカートをはいている。申し合わせたようにワンピース。
 森林公園の入り口は、普通の公園なので、誰でも入れる。周囲は山なので、囲いさえない。
 市街地から来たとき、取っつきにある入り口にそのワンピースが闇の中で目を光らせている。
 ここは市営公園だが、何処までが公園で、何処まではが自然の森で、山なのかは分かりにくい。その中央は長細い広場になっており、前衛彫刻がぽつんぽつんと置かれ、その正面奥に巨大なモニュメントと噴水がある。その左右が公園の繁みなのだが、昼間しか想定していないらしく、外灯は殆どない。実際には夜間の入場は禁止されているが、誰かが監視しているわけではない。防犯カメラは入り口にあるのみ。
 ここで何が行われているのかは、当局も把握している。アベックが公園内にいるだけでは犯罪ではない。だが、誰が見ても、それはアベックではないのだ。
 道で偶然知り合った人と公園内を散歩している。それだけのことだが、この偶然、入り口に行けばいくらでも発生するほどワンピースが並んでいる。
 森林公園の最深淵部にテントがある。ホームレスのテントだが、中にホームレスがいるわけではなく、ここで寝泊まりする人などいないが、仮眠や休憩はするようだ。ここの値が一番高い。
 吉田はそういう噂を聞いて、夜中ノコノと市街地の外れまで来たのだが、公園は無人で、誰もない。昼間ここで弁当を広げたりする人が多いためか、そこに住み着いた猫がちょろちょろしているだけ。
 猫なで声で声をかけられるので、それに従うべしと教えられたのだが、本当の猫しかいない。
 吉田は悪友の高橋から聞いたのだが、その高橋も、この猫だましの妖術にでもかかったのだろう。
 
   了

 

 

 



2015年5月21日

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