小説 川崎サイト

 

分かりきったこと

川崎ゆきお


「皆が分からないのに、一人だけ分かっている人がいる」
「詳しい方ですね」
「いや、情報は我々と似たようなものだ。だからその情報だけでは一体どうなるのかは分からない。ところが分かりきったことだと言っている人がいる」
「特別な情報を得ているのではありませんか」
「いやいや、そんな情報はない。あったとしても、未来を予測するようなものだね。最終的には分からないのが結論だ」
「神のみが知る情報じゃないのですか」
「それは情報や、分析ではない」
「知りようがないことですね」
「そうだね。予測はできるが、確実性が薄い。そのため、予測というより希望になる」
「じゃ、その人は希望を述べただけなんじゃないですか。または自分の主張を言っただけとか」
「常識だと言っている」
「じゃ、私達が常識がないと」
「あらゆる情報に目を通した。よく調べないで言っているわけじゃないし、色々な情報の真意を探ったり、虚報、誤報ではないかと疑ったりもした。非常に常識的にね。それなのに常識で考えれば分かることで、分かりきったことだとその人は言う」
「神のみが知る未来予測情報を得たのではないですか」
「マジナイは常識から外れるだろ。予言も常識から外れる。常識があれば、そんなものは使わない」
「じゃ、何でしょう。考えなくても、考察しなくても、分かりきったことだというのは」
「考えられる論理は一つしかない」
「あ、はい」
「その人は、実際には一番何も分かっていない人なんじゃないかとね」
「確実に分かっていると言いきっている人が、一番分かっていないと」
「そのパターンしか残っていない」
「はい」
「そう判断するのが常識だろ」
「そうですねえ」
「だから、その人の意見はスルーすることにした」
「結果的にはどうだったのです」
「それがね、その賢者様、答えを言わなかったんだ。言わなくても分かりきっているといってね。考える必要もないと言って、答えを公言しなかった。これだね。上手いねえ。どちらに転んでも嘘はついていない。どちらに転んでも合っているんだ。どちらに転ぶかを言っていないからね。言わなくても分かるって言い方だ。これは巧みだねえ。逃げ道を作っている」
「要するに」
「肝心要のところは言わないと言うことだ」
「でも、その人は、いちいち口に出さなくても、もう分かりきっているので、言う必要もないわけでしょ」
「本当は分かっていないんだ」
「それなら安心です」
 
   了

 

 

 


2015年5月22日

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