小説 川崎サイト



烏合の衆

川崎ゆきお



 烏合の衆とは、リーダーがいない集団だろうか。しかし鳥の集団はそれなりにまとまった行動をとる。むしろ集団で生きている感じだ。
 鳥は可能でも人間には出来ないのかもしれない。本能が崩れているため、作為的な集まりでないと動きがバラバラになる。
 坂田が参加した集団は、まさに烏合の衆だった。坂田もその中の一羽に過ぎない。
 人が作為的に動く場合、何等かの欲望が底にある。何かを求めているのだ。
 坂田が参加している有料のサークルはネット上で金儲けを企む集団だった。
 人は生きて行かねばならない。そのためには金がいる。その金は働くことで得られるのだが、嫌いな人間が必ずいる。
 坂田もその一人だ。やりたい仕事や、職種がないため、金のため、世間体のため、働いていた。
 仕事の面白さは微塵もなく、朝は嫌々起き、辛いだけの一日を終えて戻って来る。疲労がきつく、体を休めるだけで終わる。
 そんな生活を三年続け、やっと我慢の限界を感じ、退社した。
 金を得るだけなら、もっと違う方法があるのではないかと考えた。きつい労働ではなく、効率のよい方法があるはずだ。
 坂田がネットビジネスに手を出したのは、そのためだが、同じことを考えている人が多数いた。
 坂田は「ネットで金儲け」のメルマガを有料で複数購読した。どれも似たような内容で、同じ人間が書いているのではないかと思うほどだ。なかには同じ文章のものまである。
 その中に烏合の衆メルマガあった。タイトルが気に入った。
 他のメルマガと違い、気合を入れなくてもやって行けそうな雰囲気がした。
 そして坂田は研修会に参加した。
 五十人ほど集まっていた。同じメルマガを毎週読んでいる仲間だった。
 烏合の衆にはリーダーがいない。だが主催者はいる。仲間たちは烏合の衆だが、主催者は別だ。
 その主催者が会場に姿を現した。
「自由にトークしてください」
 リーダーは、その一言だけを発しただけで、沈黙した。
 何が儲かるのかを、烏合の衆は囀り始めた。
 坂田は烏合の衆の自由さを満喫したが、儲かる仕事に関する雑談だけで、実際に何をやればいいのかは見いだせなかった。
 坂田は会費と会場に来ている人数を掛け算した。これを毎月やれば高収入になることが分かった。
 坂田も烏合の衆を集めようと決心した。
 
   了
 
 
 


          2007年2月6日
 

 

 

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