小説 川崎サイト

 

闇の話

川崎ゆきお


「ややこしいものは地下にある」
「はい」
「天にあると丸見えだ」
「はい」
「隠しておきたいものは地下にある。まあ、見えないところにあると言ってもいい」
「アンダーグランドですね」
「暗倉、アングラだな」
「はい」
「地下世界、洞窟、ダンジョン、古墳でもいい。墓地でもいい。地下は闇の国。しかし、地球空洞説で、地底人がいるわけじゃないが」
「地底人対最低人というのがありました」
「何だね、それは」
「漫画です」
「漫画や落書きもアンダーだね。見えないところに落書きをする。見えるところに画くやつもいるがね。やはり建物の裏とか、人の目に触れにくい場所とかだ。これは言ってはいけないこと。使ってはいけない言葉や、表には出せないポンチ絵などもあるだろうねえ」
「闇の世界ですねえ」
「陽が当たらない、だからアンダーグランド」
「しかし、闇にも最近光が当たり出して、表に出て来ることもありますねえ」
「その瞬間、闇世界ではなくなる。そこに闇があること自体が分からぬような闇が本物の闇で、闇であることが気付かないようなのがよろしい」
「はい」
「光があれば影がある。物陰もある。ここは闇ほどに暗くはないが、それに近い。縁の下の力持ちも、座敷にはおらん。下だ。床下だ。見えない。そんな人が縁の下で腰を落とし、家を両腕で支えているとすれば怖いだろうがね」
「はい」
「そのため、神秘は地下にある」
「しかし、発掘などで、地面を掘り返すでしょ」
「滅多にそんなことはしないさ。何かの工事で掘り返したとこに、何かが出て来たので、あとは丁寧に掘り起こすだけだろう。あの岡が怪しいと思っても、勝手に掘り出せないからね」
「そうですねえ。盗掘になりますねえ」
「天然物の宝物も地下に眠っていたりする」
「鉱山ですね」
「人も一日一度は闇の世界に入る」
「睡眠ですね」
「常に闇と接しておる。毎日だ。しかし寝ているので、気付かない。闇の中にいても闇だと気付かない。寝ているから当然だな。ただ、闇の中で夢を見る。これも不思議な話だ。見ない人もいるが、覚えていないんだろう。犬も猫も夢を見る」
「魚は」
「あれは泳ぎながら寝ている。泳ぎ続けないと死ぬ魚もいるしな」
「虫は」
「さあ、やはりじっといているところを見ると、寝ているんだろう。死んだふりをする虫もいる。冬眠する虫もいるな」
「それで、何のお話しでした」
「忘れた」
「そろそろ闇の入り口がお近いのでは」
「そうかもしれん。年寄りは睡眠時間が短い。それが長くなり出すと、闇が近いのだろうねえ」
「はい」
 
   了

 






2015年6月12日

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