小説 川崎サイト

 

山頂墳

川崎ゆきお


 市街地がすぐそこの城山。城の名は知られていない。こういった山城は日本中無数に、世界にも無数にあるだろう。
 この城山は砦程度のもので、当然天守もない。石垣跡ももう崩れて、殆ど残っていない。市街地は平野だが、すぐに海になる。昔の土豪などがいたのだろうか。土地の首長だが、酋長のようなものだろう。その規模だ。
 もし敵が攻めてくれば、住んでいる住民は、この城に避難する。支配層と言っても、土地の人だ。
 城山が盛んだった時代は、戦国以前、もっと古い。そのため、城についての資料などは残っていない。城は古代からある。そこまで、この城は古くはないが、古墳時代以前の古墳が、この城山にあった。山頂墳だ。これはトーテムのようなもので、この土地の支配者の墓だろう。当然そんな一族など、もうここには住んでいない。時代が古すぎる。その近くの山中にも古墳があり、ここは名が知られているが、山間なので、山頂墳ではない。
 この城山からさらに奥の山岳部にもう一つ山頂墳がある。尾根続きなので、それほど遠くはないが、里から離れすぎている。
 山頂墳と言っても、盛り土ではなく、石を積み上げたピラミッドのようなものだ。これは破壊されている。
 下からからもよく見えたようだ。何故そんな目立つような墓を作ったのかは、様々な説があるが、権威付けだろうか。この辺りの支配者は、何のなにがしの一族であると言うことを、誇示するための。
 また、酋長が死に、子供が跡を継ぐのだが、まだ若いので侮られる。そのため、威嚇のため、墓を用意する。死んでもなお、室の中で生きているわけではないので、墓がその代わりをする。これは先祖代々を祭った仏壇の力と同じだ。大きな後ろ盾となるが、死んでいるので、その力はないのだが。
 さて、この奥にある山頂墳は、できてしばらくして取り壊されたようだ。壊されたのである。この一帯が侵略され、前権力者のものをことごとく壊した。真っ先に壊したのは、このピラミッドのような石組みだ。そのため、古墳らしい形などまるで消えている。敵の象徴を真っ先に壊したようなものだろう。
 まだ大和朝廷などができる以前。海が近いことから、安全な山岳に住んでいたのではないかとも言われている。当然海から来る敵の船を見張る意味でも。
 ここでの仮想敵は隣り合った海沿いや内陸部の国ではなく、もっと外側の遠いところから来る敵だったのかもしれない。軍船を率いてくる敵。
 その山頂墳のあった辺りから神代文字が刻まれた岩が出て来ている。漢字ではないのだ。ここに古代王朝があったのではないかという人もいる。
 山岳部の小さな平地。わずかに平らなところが続いている場所。案外こういうところが住みやすかったのかもしれない。
 
   了

 



2015年6月14日

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