小説 川崎サイト



藁人形の里

川崎ゆきお



「こんなパンフレット、どこで手に入れたんだ。そっちのほうが興味深いよ」
 有限会社社長徳岡は部下の宮内を窘めた。
「これはパンフレットではなく、ホームページを印刷したものです」
 宮内が答える。
「誰が?」
「僕がです」
「じゃ、こんなパンフレットは存在しないのだね」
「はい」
 徳岡社長は印刷されたホームページを読み始めた。
「それで?」
「行ってみたいと思います」
「君がかね?」
「可能な限り動いてみたいと」
「呪い殺すわけか」
「他に手はないでしょ、敵を潰さないと我が社が潰れます」
 徳岡社長は出張を許可した。
 宮内は廃村に近い村に入った。まるで平家の落人の心境だ。いずれ会社が潰れれば何処かへ落ち延びなくてはならない。
 そのホームページは神社のものだった。
 だが、どう見ても村の氏神様だ。里山の雑木林に囲まれ、絵に書いたような鎮守の森だ。
 宮内は神社で申し込みをし、民宿のような旅館に入った。温泉もなければ名所旧跡もない。当然旅館など必要のない村なのだ。
 しかし満室らしく、相部屋になった。
 神社で受け取った袋には藁人形と五寸釘と木づち、それにハチマキとローソクが入っている。
 村興しで、こんな丑三つ参りツアーをやっていることは確かだが、さすがに表向きには出来ないだろう。
 宮内がこのお参りページを見つけたのは偶然ではない。会社のアドレスへのダイレクトメールだった。仮登録すればホームページへのパスワードがもらえる。一般のコンテンツではない。
 藁人形を手にしながら宮内は今、藁にもすがりたいと言うところの藁を触っている。
 藁人形の里として売り出す手があったのかもしれないが、目的が悪すぎた。やはり、こんな感じで裏でやるしかなかったのだろう。
 草木も眠る丑三つ時、ローソク明かりの行列が続いている。
 鎮守の森には大木が多い。
 宮内は割り当てられた大木の前で呪いをかけた。ライバル会社が潰れますようにと。
 丑三つ参りは誰にも見られないように実行するものだというのも忘れて。
 
   了
 
 
 



          2007年2月8日
 

 

 

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