小説 川崎サイト

 

寺城

川崎ゆきお


 怪しいものを訪ね歩く高橋が妙な寺を発見した。これは普通に見ただけでも怪しい。怪堂、妖怪堂ではないかと錯覚するほど、目立つ場所にある。お寺の門があり、塀があり、その塀のすぐ上にお堂がある。しかも二階建て。塀が二階建てのお寺なら、もっと珍しいが。
 普通の道に面しており、前は児童公園で、子供達が遊んでいる。最近は男の子より、女の子の方が元気で人数も多い。ぶら下がり棒などに挑戦し、芸を競い合っているのか、荒っぽい動きをするのは逆に女の子の方だ。いずれも小学校高学年だろうか。男の子達は逆に草場でゲームをしている。
 さて、その怪しい塔のようなものだが、最初鐘撞き堂ではないかと思った。お寺によくあるような窓があり、それを鐘と見間違えたのだ。その位置に鐘があってもおかしくない。しかし、鐘撞き堂は鐘撞き堂としてあった。門を挟んで、左に怪しいお堂か塔、右に鐘撞き堂だ。門は閉まっている。
 お堂の広さは二畳あるかなしだろう。そこに入って修行でもするのではないかと高橋は考えたのだが、通りに面しているため、静かな場所ではない。
 高橋はこれは何かと、公園でパンツ丸見えで遊んでいる女の子に聞こうと近付いたとき、すぐに止めが入った。気が付かなかったのだが、公園の隅の植え込みに人がいたのだ。腕章をしている。
「何か御用ですか」
「いえいえ」
 女の子達はキャッキャと叫びながら、猿のようにぶら下がり棒に飛び移る練習をしている。将来アイドルになるため、今から運動をしているのだろうか。
 しかし、怪しい塔について、こんな子供に聞いても分からないので、その子供番のお爺さんに聞いてみた。
「あれは私と同じだよ」
「あのお堂がですか」
「見張り櫓だよ」
「ああ」
 町中探索のベテランである高橋はもっと早く気付くべきだった。そのヒントはここへ来るとき、貰っている。つまり、真っ直ぐな道がないのだ。
「ここは何ですか」
「村だよ」
「はい」
「家が集まっているところだった。一寸した町屋もあったらしいけど、今は何も残っていませんよ」
「城」
「そうです。よく分かりましたねえ」
「別のところで、見たことがあります。その町はやたらとお寺が多いんです。そして、あんな櫓があったような」
「流石にここは堀で囲まれてはいませんがね。それでもこのお寺だけは昔は掘り割りされていましたよ。そのあとが堤防のように残ってます。見ましたか」
「いいえ」
「残っているのは僅かです。今は墓地になってますから、入れないか。そうそう」
「あのお堂はその当時のものですか」
「違います。燃えました」
「あ、はい」
「それで、再建したのです。もう見張り台もいらないのですがね。この櫓が城のように見えていたので、それがシンボルのようなもので、意匠として、建て直したときにも作ったようです」
「中はどうなってます」
「上がれますよ。今は物置になっているんじゃないかな」
「経机とか置いて、坊さんが自習するとか」
「自習ねえ。まあ、私も子供の頃は、気になってましたよ。あの中ね。狭いけど風通しがいい。見晴らしもいい。二階家は増えましたが、高い建物は寺の大屋根程度でしたからねえ」
「何の戦いに巻き込まれたのですか」
「一揆ですよ」
「はあ」
「領主と仲が悪くてねえ。領主と戦ったんですよ。勝ちましたがね」
「じゃ、村人が領主」
「いやいや、別の領主に変えたのです」
「戦国時代の小競り合いがあったような時代の話ですね」
「そうです。歴史にも残らないようなね」
「はい」
「私らの先祖は、別の領主、これは公家さんです。そちらの方が何かと商売に都合がいい。コネがききますからねえ。この村が豊かなのは行商に出るからです。このとき、その公家さんの顔が役に立つのです。それで前の領主を追い出したのですよ。あっぱれな話でしょ。その記念です。お寺は火を放たれ全焼でした。公家さんが寄越した援軍が弱くてねえ。飯だけはよく食っていたらしい。それで米食い兵って言われていましたよ。そこで亡くなった人の墓もありますよ」
 子供達が、また猿のようにキャッキャッと、歓声を上げている。誰かが、ウルトラCでも出したのか、あるいは新記録を出したのだろうか。
 
   了




 


2015年6月26日

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