小説 川崎サイト

 

日常外

川崎ゆきお


「毎日同じことを繰り返していると、別のことをするのが大層になりますなあ」
「そうなんですか」
「一日のスケジュールがあります。たまに用事が入ると、レールから逸れるようで、落ち着かないのです」
「そういった用事の寄せ集めが、スケジュールでしょ」
「はい、予定表ですが、そんな表は必要ではありません。順番が決まってますから。それにやることも決まっています。そこに別の用事が加わるとペースが乱れるのです」
「でもたまに違うことをすると、刺激があっていいでしょ。同じことばかりだと退屈して、別のことがやりたいと思いませんか」
「思いません」
「ほう」
「むしろ普段の用事がおろそかになり、日常生活が乱れます。これは、いいことでも悪いことでも、どちらもです」
「楽しい用事が入れば、普段の用事より楽しいはずなので、楽しい時間が過ごせると思うのですが」
「あなたがね」
「え」
「だから、あなたがそう思うだけです」
「ああ、はい」
「ただ、突発的なことはいいのです。予定にないような。しかもいきなり起こるような用事なら」
「それは何ですか」
「予定にない用事なら、受け入れやすいのです。普段の用事をこなしているとき、一寸変化があったり、突発的なことが起こったりとかね。これは付録です」
「つまり、日常の過ごし方の話ですね」
「そうです。日課のようなものでしょうか。それが徐々に変化していきます。自然な変化かどうかは分かりませんが、そういう気風になり、今までやっていた用事が消えて、別の用事に変わったりします。だから一年前なら同じかもしれませんが、二年、三年になると、用事も変化しているのです」
「学校なんかはそうですねえ。ずっと同じ学校で何年も過ごせませんから」
「まあ、それは起きて行く学校が違う程度です。やがて会社になるとしても、起きて行く場所が一寸変わっただけです。二部もあるので、夜から行く学校もありますがね」
「どちらにしても、退屈しませんか」
「だから、日常の用事があるので、それをこなしているだけでも一杯一杯ですよ。忙しいほどです。もう少しゆったりとしたいほどです」
「日常の中に何か深みでも」
「深み」
「極めるとか」
「いや、ただの習慣ですよ。大したことなどしていません」
「変わったものを見たり、刺激を味わったりは、だめですか」
「いやいや、日常の中にも結構変わったもの、刺激的なものが入ってますよ。わざわざ狙わなくても」
「はい」
「しかし、今日は」
「そうです。ばったり昔の人と合ったので、話してしまいました。これは日常にはない。こういう偶然が色々あるんです。日常外のことがね」
「何か、奥義のようなものを見ました」
「浅いです。そんな奥はありませんよ」
「あ、はい」
 
   了

 


 


2015年7月2日

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