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不満
川崎ゆきお
「一寸した不満は必要ですなあ」
「不満ですか。それはストレスになり、心身に悪いんじゃないですか」
「世の中に心身にいいものなど何もないでしょ。全て悪い。ただ、気にするか、しないかの違いでしょう」
「ほう」
「まあ、不満と感じるかどうかはその人次第。ただ、不満がなければやることがなくなったりしますよ。こちらの方が深刻だったりします」
「何を差しているのか、よく分かりませんが、軽い不満はいいのですね」
「他の人にとっては非常に重くて深刻な大不満かもしれませんが、そう感じない人もいます。体感温度と同じです。温度差があります」
「不満だと、機嫌が悪くなるでしょ」
「ずっと機嫌のいい状態を考えてみて下さい。阿呆ですよ」
「ああ、それは」
「調子が悪いからいいときが良い。それと同じ理屈ですよ」
「考え方次第ですね」
「そういう自己啓発ものではありません。自己啓発をやるとすぐ不満を感じたりするでしょ」
「あまり読んでませんが」
「誰かの説教でもよろしい」
「ああ、分かっていることをくどくどと言われると不満ですねえ」
「また非常に良い方法を聞いても、それが実行できないと、自己嫌悪になったりします。聞いていなければ、何ともない」
「それで、不満についてなのですが」
「この不満がリードなんです」
「リード」
「牽引ですなあ」
「不満を解消しようと動くわけですね」
「まあ、時間ものもあります。時が来れば、消えていく不満もあるでしょ。その間辛いですが、これは貯金です。長く我慢して貯めていたものを一気に吐き出せます。何もしなくてもね。時が経てば解決する不満なら、従って動く必要はありません。逆に何かを企てると逆にもつれてしまい、時の経過では解決しなくなったり、あるいは長引きます」
「そんな例はあまり思い当たりませんが」
「気が付かないだけですよ。だから、その状態がよろしい」
「不満は悪いことじゃないのですね」
「不満足、不愉快、これは解消してしまうと、あと、何も残らなかったりします」
「すっきりして、過ごしやすくなるのでは」
「不満があるときのほうがやる気が起きたりします。解消したいですからね。解決してからは、やりがいが消えたようになるかもしれません。通りがよくなったのは良いのですが、そこを歩いていても、走っていても、何か気力、手応え、歯応えが弱まっているはずです」
「それも、あまり思い当たりませんが」
「気が付かないだけです。それでよろしい」
「はい」
「不満が解決、解消したときの気持ちよさを味わうために、不満の原因を作っているようなところもありますよ」
「そんなことはないかと」
「気が付かないだけです。それでよろしい」
「はい」
「ああ、助かったという思い。これが良いんでしょうねえ」
「あ、はい」
「助かっていなければ死んでいる」
「はい」
「そういうことです」
「あまり思い当たりませんが」
「気が付かないだけです。それでよろしい」
「はい」
了
2015年7月3日