小説 川崎サイト

 

懐かしい夢

川崎ゆきお


「夢の中の場所なんですがね」
「夢の話ですね」
「そうです。何故か懐かしいような風景、場所なんですよ。それがよくてねえ。寝るのが楽しい」
「毎晩夢を見られるのですか」
「見ているんでしょうが、忘れてしまいます。これは起きたときの調子で、覚えているときと、覚えていないときがありますなあ。また、夢を見た気配が全くないときも。それよりも夢を見たはずで、よく覚えているのですが、起きたとたんにスーと溶けて消えて、何かよく分からなくなっている。これは、徐々に目覚めていったのでしょうねえ。起きがけの夢です。そのときは覚えているんですよ。しかし、しっかりと目が覚めたときには忘れている。でも糸口は分かる。少しだけ、どんな傾向の夢だったか。それが楽しみにしていた懐かしいような場所が出てくる夢なのです。ああ、見逃した。と言うより、思い出せなくなったと、悔やみます。こういう懐かしい夢は起きてからしばらくの間は楽しめます。夢を思い出す楽しみですね。でも全部覚えてはいない。これも消えていくので、起きた直前に食べてしまわないと、だめです」
「その懐かしいような場所が出てくる夢って、どんなものですか」
「あ、はい。おそらく今よりもかなり若い頃でしょ。もう今では行かなくなった場所とかで」
「場所とは」
「店屋でしょうかねえ。飲食店とか、また、何かの寄り合いで集まっているとかですね。これは記憶にあります。あそこかもしれないとね。しかし、矛盾点がありまして、特定出来ない。色々な場所や人が組み合わさっていて、ごっちゃになっていたりします。知っている人も、当然出て来ますよ。しかし、それも特定しにくいのです。こんな人と昔合ったのかなあと思うほどのね。きっと出合ったんでしょうねえ。確実に特定できる友人などが出てくる夢もありますが、その友人の姿で、年代が分かったりしますが、これが当てにならないこともある。そして、私は一体何歳なのかですねえ。一応私が見ている夢なので、カメラは私の目でしょ。目がカメラだとしてね。だから私の視点で見ているのですが、その私が映っているとき、誰の目でしょうねえ」
「そんな細かい話は分かりません」
「はい。それで、最近見ているのは、そういった人が集まっている場に私も参加していて、何かをやっているシーンなんです。まるでドラマのように。ただ、いきなり始まりますからねえ。何をやっているのか、分かりにくいのです」
「はい」
「そんな夢を見た日に、昔の友達とばったり出合ったりします。この人は夢でよく出てくるのですよ。若い頃一緒に行動していた仲間の一人です。夢の中では、この人の実家のある家へよく泊まりに行きましたよ。実際に何度か泊まりましたが、もう何十年も前の話です。ところが夢の中では、まだ今も泊まりに行っているのですよ。古い大きな家でした」
「それはまあ、個別の話で」
「だから、夢の話なので、そんなものでしょ」
「それで、懐かしい夢とはそのお友達が出てくる夢ですか」
「そうとは限りませんが、いい時期というか、いい時代の話でしょうなあ。楽しかった時代のね」
「しかし、楽しい夢が見られて、いいですねえ」
「最近はそれが一番の楽しみです。下手なドラマを見ているよりも感慨深いです。筋書きも何もないのですがね。一気に当事者になっている感じです。しかし、今夢を見ているなあ、というのを夢の中で分かるときもありますよ。こういうときはその夢、終わりがけです。きっと意識が起きてきているのでしょうねえ」
「悪夢もあるでしょ」
「ありますよ。だから、全ての夢が楽しいわけじゃありません。まあ、悪夢を見るのは、昼間の調子がいつもと違うときが多いですねえ。どちらにしてもリクエストはできません。どんな夢を見させてくれるのかは、寝る前には分かりませんから。しかし似たようなジャンルの夢を続けて見ることはたまにあります」
「はい」
「夢は現実なんですよ」
「はあ?」
「操作出来ない。筋書きが決まっていない」
「ああ、なるほど」
「夢のお告げとかは、まだ確認していません」
「予知夢ですね」
「予知されていたのかもしれませんが、夢と関連付けて考えていないためでしょうねえ」
「はい」
「参考になりましたか」
「なりません」
 
   了


 


2015年7月12日

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