小説 川崎サイト

 

血の道

川崎ゆきお


「こう暑いと、何かをする気がしません」
「夏はねえ、だから、夏休みがある」
「もう学校へ行ってませんからそんな休みはありません」
「今、何を」
「ぶらっとしています」
「休んでいると」
「あ、はい」
「じゃ、やることなんて、最初からないでしょ。それに長い夏休みを過ごしているようなもので」
「休んでいるのではなく、自分の仕事を見付けるため、または自分を見つめ直すため、更新中なのです」
「あ、そう」
「しかし、こう暑いと、何もできません」
「何+もしなくてもいいのでは」
「いや、それなら、ただ単にサボっているだけになります」
「就職活動とかは」
「それ以前に、自分の適性を考えたりしています。思っている以上に適性が違っていたりします。やりたいことと、できることとが違っていたり」
「まだ、そんなところにとどまっているのですか」
「ここは大事ですから」
「さらにそれ以前もありますか」
「以前」
「適性を考える以前です」
「ああ、それは何かしないと食べていけないので、仕事をする。その仕事が合ってないとやめてしまう。だから、周囲に迷惑がかかるので、適正な仕事を選ぶ。その適正を探しているのです」
「じゃ、仕事探しですね」
「そうです」
「それ以前となると、何故仕事をしないといけないかでしょ」
「はい。それは食べていくためです。生活のため、将来のためです」
「仕事の内容は」
「それはまあ、適当でいいです」
「じゃ、仮に働かなくてもよい状態なら、仕事をする必要はないでしょ」
「それは有り得ません」
「あ、そう。でも、仮にです」
「もしそんな恵まれた環境なら、仕事などしません。ずっと遊んでいます」
「それは私が今やっていることです」
「ああ、羨ましい」
「ところが、あなたと同じで、やることがない。暑いと何もやる気が起きない。それに、好きなことなんて、すぐに賞味期限が来ますしね。それなら、あくせくと働いていた方が、持ちがいいです」
「持ち?」
「間が持ちます。一日が忙しく過ぎ去ります」
「しかし、それはやりたくてやっていることじゃないので」
「本当にやりたいことなんて、幻のようなものでしたよ」
「羨ましい限りです。贅沢な悩みです」
「それで、あなたの長い休憩はいつ終わるのですか」
「まだ続きます。まだ、何も決まっていないので」
「その間の収入は」
「何とかなります」
「じゃ、そんなに切羽詰まった暮らしじゃない」
「ああ、一応働いていましたから」
「ほう」
「その収入がまだ入って来ますので」
「何ですか、それは」
「いや、大した金額じゃないです。それもすぐに止まるので、それまでの間に、何とか仕事を見付けたいと思っています。でも暑いので、やる気が消えてしまいました。これは秋からにします」
「何かよく分かりませんが、仕事を選びたいと言うことですか」
「はい、適職を」
「まあ、いい身分だと言うことでしょ」
「いえいえ」
「私は働かなくてもいいのですが、健康を害しましてねえ。何をするにしても体力が続かないし、症状がすぐに出る。それで、何もできないのですよ」
「そうなんですか、そのようには見えませんが」
「さらに暑いので、何もできない。だから、暑いのは歓迎なんです。この時期、何もしなくてもいいんだと思うとね」
「そんなに悪いのですか」
「血を求めているだけです。血さえあれば元気になります」
「えっ」
「それを我慢しています。迷惑がかかるのでね」
「血、血ですか。輸血が必要なのですか」
「直接のね」
 
   了



2015年7月18日

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