小説 川崎サイト

 

不思議な家

川崎ゆきお


 古田老人の昔の家の話だ。今もそんな家が残っているかもしれないが、その後行っていないので、どうなったのかは分からないらしい。
 その家は玄関が二つある。表玄関には門があり、特に変わったところはない。二階建ての木造で、一戸建て。古田老人はその家の子と同級生で、たまに遊びに行った。友達の部屋は二階にあるが、一部屋しかない。三方に窓があり、見晴らしがよかった。子供部屋だったようだ。
 二階への狭く急な階段は薄暗く、そこを降りると茶の間の前に出る。そのまま廊下を進むと玄関になる。
 いつもは玄関や、門のところまで見送ってくれるのだが、その日は手が離せないためか、一人で外に出ることになった。
 階段を降り、茶の間前に来て、方角を見失った。階段を降りたとき、左へ行くところを、右へ行ったのだ。その廊下の突き当たりに、また階段がある。二階がもう一つあるのではなく、下へ下りる階段だ。こちらはやや広い。
 古田老人は地下室かと思い、降りていくと、明るい。窓からの光がある。一寸した座敷と板の間があり、そこに段ボールなどが積まれている。倉庫のようにも見えるが、蒲団が敷かれている。その奥にガラス戸があり、人の後ろ姿が見える。
 古田老人は硝子窓から、覗き込むと、お婆さんが座布団の上に座っている。その向こう側は外だ。表通りなのだ。
 古田老人はすぐにそれが何であるかに気付いた。駄菓子屋なのだ。
 これはまやかしだと思い、急いで階段を駆け上がり、二階へ上がる階段を通過し、茶の間前の廊下から玄関へ出た。そして、家をよく見たが、下の階などない。あればあれは地下室になる。
 これは結局坂道沿いにある家で、実際には三階建ての家なのだ。坂の折り返し地点に、その家が建っていただけのことだが、古田老人はずっとそれを知らなかったのだ。別の家だと思い、見ていた。つまり、たまに行く駄菓子屋と同級生の家が同じ建物だったことに気付かなかったのだ。
 もう何十年も前の田舎町での話なので、今はその家、どうなっているのかは分からない。
 
   了

 





2015年7月26日

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