小説 川崎サイト

 

天の知らせと天罰


「世の中にはお知らせがあるのです」
「ありますねえ、色々なお知らせが」
「その中でも超お知らせがあります」
「超」
「ちょうです」
「それは何ですか」
「まあ、昔から言われている虫の知らせのようなものでしょうか」
「確かにそれもお知らせですが、どれがお知らせか、気付かなかったりしませんか」
「どうするかで迷っている買い物があるとします。近所の店に売っています。しかし、買うべきかどうかで迷っています。本当は買わなくてもいいんじゃないかと、何度か結論を得ています。しかし、やはり欲しい。それで、買いに行くと、雨が降り出した。まあ、最初から曇っていたので、降り出してもおかしくはありません。しかし、その雨、かなりきつい。これは止めのお知らせでしょ」
「止めのお知らせ」
「雨で止めようとしているのです」
「そんな」
「また、その買い物、濡れてはいけない品です。自転車で出掛けた私は、濡らさないで持ち帰る自信はありません。これは晴れた日に延ばそうと、引き返します」
「それは虫の知らせではなく、雨の知らせですね」
「雨の止めです」
「はい」
「次は晴れた日に買いに行きました。雲一つない晴天、もう大丈夫です。そのときも、買うべきではないかしれないという考えは常に頭をよぎりっぱなしでした。しかし欲しい。それで、実行です。自転車に乗りました」
「はい」
「ところが、暑いのなんの」
「はあ」
「これは真夏の話でしてね。猛暑でした。それもいつもより暑い。店屋まではかんかん照りで、日陰もない。三分の一も走らないうちにバテまして、それ以上走る根性を失いました。そうまでして欲しい物ではなく、あった方がいいなあ、程度でしたからね」
「太陽のお知らせですか」
「まあ、そういうことです」
「それでどうなりました」
「そんなことでは諦めません。雨を避け、猛暑日を避ければいいんだ」
「しかし、車と接触しかけて、転んだとか、色々あるんでしょ」
「それらはお知らせどころか、実力行使です。だから知らせとは言いがたいのですがね」
「それでどうなりました」
「ある日、あまり思い詰めないで、ふっと買いに行き、さっと買って帰りました」
「お知らせは」
「ありません」
「やはり偶然だったのですね。雨も暑さも」
「ところが帰ってから、玄関口で転びました」
「それは何ですか」
「バチが当たったんですよ。お知らせを無視したので」
「しかし、その品は手に入れられたのでしょ」
「はい」
「今、その品は」
「あります。しっかりと使っています。やはり買ってよかったと満足を得ています」
「じゃ、雨や、猛暑のお知らせは何だったのでしょうね」
「止めのお知らせが入るほど、行くのがいいのです」
「はあ」
「しかし」
「後日談ですか」
「玄関先で受けた怪我のため、まだ足を引きづっています」
 
   了






2015年8月7日

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