小説 川崎サイト

 

一日を二日分にする方法


「一日が倍になる方法を見付けました」
「ほう」
「一年が二年になります。十年が二十年に、これは大きいでしょ」
「どうするのかね」
「一日を二等分します」
「しかしそれでも一日は一日だろ。ただの午前中と午後のことだろ」
「間に昼寝を噛まします。これが効きます。昼寝から起きたのと、朝目が覚めたのとでは同じです」
「時間が違うし、睡眠時間も違うでしょ」
「そこは錯覚して、何とかなります。たまにあるでしょ。目が覚めたとき、今何時なのかと。朝までぐっすりと眠れる人なら、それはないですが、途中で起きたとき、今、朝なのか、まだ宵の口なのか、一瞬判断に迷うことがあります。これです。これが昼寝後に起こります。一度ありました。朝だと思ったのです。昼寝は三十分から一時間です。僅かな時間ですが、目が覚めたとき、朝だと思いましたよ」
「本当ですか」
「いや、少しはへんだなあとは思いましたよ。それこそ、今何時なんだ。私はいつ寝たのだ、とね」
「しかし、すぐに分かるでしょ。昼寝していたことを」
「はい、そうです。しかし、体と言いますか気持ちと言いますか、それを起ち上げることでは朝と変わりはないのです。私の場合、しっかりと蒲団で寝ますし、パジャマで寝ます。昼寝ですがね。本寝と変わらないスタイルです。ただ、部屋が明るいですがね」
「しかし、朝と勘違いしても、それは昼過ぎでしょ。朝から始まった一日の中での昼を過ぎた程度で、一日の内」
「仰る通りですが、起きた瞬間は朝の行事と似たようなことになります。顔を洗ったりとか。それがまるで一日の始まりのように感じられるのです」
「それは朝、終わったのでしょ」
「もう一度です」
「それで、一日が倍ですか」
「寝起き新鮮なうちに仕事をします」
「しかし、昼寝をした分、一日の時間が短くなりはしないかね。倍どころか、余計な睡眠を取って一日の時間を減らしているようなものだ」
「時間的にはそうですが、集中してさっとやれば、本当は半日でできるような仕事ばかりやっているものですから」
「どんな仕事だ」
「仕事内容の詳細は省きますが、だらだらと一日かかってやるよりも、さっとやれば半日で片付くわけです。だから、私なんて、午前中に本当は仕事は片付いていたりしますよ」
「だから、それはそう言う融通の利く仕事内容の人に限られるのであって、どうしても一定の時間が必要な仕事もあるでしょ」
「はいはい、だから、私にだけ、当てはまる。もっと言えば、しなくても良いような仕事だったりしてね」
「どんな仕事ですか」
「詳細は省きますが、時間給のような仕事ではなく、決断の仕事です。一日かかることもあれば、二時間でできたりしますから。だから、一日が長いんじゃないかと思いましてね。それで二つに分けたわけです。そのおかげで、一日一課題が、二課題できるようになりました」
「くどいようですが、それは仕事内容にもよるのですよ」
「はいはい」
「私は自宅で内職をやってましてね。手をこまめに動かす加工物です。単純作業ですが、どうしてもそれ以上早くできない。どうしても一定の時間が必要。だから、私には当てはまりません。昼寝などしてみなさい、夜にずれ込んで、寝る時間が遅くなる」
「ご尤もな話です」
「だから、仕事内容による話を、さも一般的な話のようにしないでいただきたい」
「ああはい」
「あなたには通用しても、他の人には通用しないことがあることをお忘れなく」
「ああ、はい」
 
   了





2015年8月11日

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