小説 川崎サイト

 

窺い知れない世界


 あるものを変えたり、動かしたりすると、別のところで、妙なことが起こることがある。因果関係は全くない。例えば木を切るとか、石を動かすことと、その人の生活とはあまり関係はない。全くないわけではないが、庭の木がなくなったので、風通しがよくなったとか、日当たりがよくなったなどの影響はあるだろうが、それが原因で起こったことではなく、まったく別の理由の場合、直接の因果関係はないことになる。
 また、いつも使っている道具を別のものに変えてから、妙なことが続いたりする。
 これはそういう時期に当たっていたとも言える。
「まあ、それは思い過ごしでしょう。普段から色々と変化がありますよ。ただ、それと結びつけないので、意識的にならない。だから、因果関係など考えない。それ以上深くね」
「目に見えない何かの結界のようなものを壊したので、悪い魔のようなものが入り込んだのじゃないですか」
「君はいつの時代の人かね」
「いえいえ」
「そういうことは、心理学的な問題で、気にするから目立つのですよ。同じことが起こっていても、神秘事として結びつけない」
「それは分かっているのですがね」
「じゃ、問題はないでしょ」
「案外いいことがあっても気付かなかったするかも」
「そうでしょ。あるものを変えたり、動かしたりしてからいいことが起こる。この場合、気にならない。所謂ラッキーアイテムですね」
「それよりも、悪いことが続く方が心配です」
「じゃ、何も変えられないじゃないですか。茶碗が割れたので、別の茶碗に変えることもできないでしょ」
「ああ、そういうのは気になりません。割れたのだから。しかし割れてもいないのに、茶碗を変えると、気になります」
「何故変えるの」
「ああ、お茶漬けのとき、一寸小さいからです」
「じゃ、最近お茶漬けを食べる機会が増えたんじゃないですか。それはお茶漬けを好む理由が原因にある」
「いえいえ、増えていません。ずっと、この茶碗はお茶漬けには合わないなあと思いながら、食べていただけです。お茶漬けを食べたい精神状態にある、と言うことじゃないです」
「あ、そう。まあ、そういうことは心理的なことが原因で、不注意になったり、怠慢になったりし、思わぬことを招くのかもしれません。その人の心情が色々なものを引き寄せたり、引き離したりするのですよ」
「まあ、そうですが、やはり目に見えない何かが働いているような気がするのですが、これもただの心の問題ですか」
「そうです」
「しかし、そうだと分かっていても、もう一つ不思議さを感じるのはどうしてでしょうか」
「気のせいでしょう」
「何かをダイレクトに感じているんじゃないですか」
「動物的勘ですか」
「直感とまでは言いませんが、何か不都合な感じがしたりとか」
「心はそういう動きをするものですよ」
「それが分かった上で、言っているのですが」
「そこから先は私にも答えられません。窺い知れない世界だからです」
「やはり、あるんだ」
「そう喜ばないで」
「あ、はい」
 
   了



2015年8月14日

小説 川崎サイト