小説 川崎サイト

 

幽霊が見える人


「異界、異空間、亜空間、此の世の外、別世界、それらはどういうものでしょうか」
「いずれも現実の中にあるんじゃないですか」
「いえ、この現実ではなく、非現実、あり得ない世界です」
「たとえば?」
「幽界とか」
「ああ、そっちの話題ですか」
「または異次元」
「だから、それらは現実の中にあるんですよ」
「そうなんですか」
「現実の何かがモデルになってます。そこにあるものは何処か現実にある小道具大道具、背景や風景です」
「はい」
「死神」
「死神がどうかしましたか。これも現実の内ですか」
「着ているものが、現実ぽいじゃないですか」
「え、死神は何を着てます」
「白い着流しが多いですねえ。経帷子に近いような。三角を額に付けていない程度」
「そうですねえ。死神に引き立てられて歩いている死者達は経帷子でワラジでしょ。三途の川の渡し銭を持って。現金はそれだけで、その後いらないんでしょうねえ」
「それらは全て現実にあるものでしょ」
「そうですが、分かりやすく説明するため、そんな絵になるんじゃないですか。まさか素っ裸じゃ他のものになりますし」
「だから、色々と矛盾が起こります。五体が繋がっている人ならいいのですがね」
「ああ、そうですねえ」
「だから、現実を通してしか、見ていないということです」
「はい」
「ここからが神秘の世界に入るのですが、現実の感覚とは違う構造で見ないと、異世界は見えません。まあ、目で見ているわけじゃないですが」
「見えるのは霊感の強い人ですね」
「さあ、そこです。やはり現実を模した見え方でしょうねえ。だから、現実内って言っているわけです」
「はい」
「霊感が強い人は霊が見える。果たして外側の映像を見ているのかどうかは疑わしいでしょ」
「五感では感じられないのですから、それは肉眼ではないと思いますが、それを翻訳するように現実的な映像として脳に映してているのでは」
「ほうほう、あなたの方が詳しいじゃないですか」
「色々と想像しているだけです。その成果です」
「そうです。感じたことを具体的な形などに翻訳しているのです」
「それは、今、私が言いましたが」
「そうですね」
「私は不思議に思うのですが、霊が見える人、本当に見えたのでしょうか」
「当然、現実の像として変換したものなので、見えたのでしょう。実際には目には見えない。そういう感覚外でしか感知できていないと思いますがね。また、実際に存在している人間の頭では感知できない世界があるのでしょう。幽霊に限らず、もっと外の世界がね。誰も見えないのに、その人にだけ幽霊が見える。これは合成ですね。幽霊とレイヤーの語呂で言っているわけじゃないですが、幽霊だけ脳内のレイヤー映像です」
「はい。分かりました。それで私は、ミステリースポット、特に幽霊が出るスポットを見て回りましたが、一匹も見ません」
「一匹なんて言うと失礼ですぞ」
「そうですね。しかし、そのものは見たことはないのですが、その周囲のものが一寸妙な具合になってます。それらは現実の実際にあるものの組み合わせなんですが」
「怪しいものはないかと丁寧に見るから、そういうものに気付くのでしょう」
「そうですねえ、敏感になってますから」
「それらのスポット、霊感の強い人を連れて行けばどうなります」
「はい、当然、やっています。同行しました」
「どうでした」
「見えるとか、出たとか言ってましので、その人は見たのでしょ」
「まあ、周囲の期待もありますしね」
「ああ、はい。でも幽霊がいるから、そういうスポットが生まれるのでしょ。目撃者が多いから」
「錯覚以外のもので、妙なものが見えるというのは、霊とは限らないかもしれませんよ」
「どういうことですか」
「やはり目や耳、そういった五感で捕らえられるものではないので、幽霊かどうかも分からない」
「よく分かりませんが」
「現実の内だと言うことです」
「でも、見えないのでしょ。だけども感じられる。特殊な能力の持ち主なら」
「やはりそれは内側で起こっていることが外にはみ出ているのです」
「はあっ」
「内側で起こっていることが外側として見えているように見えるのです」
「少し混乱しました」
「まあ、神経が少しややこしい状態のときは、内映しではなく、外映しとして出ます。外の映像や音としてね。これは音の場合が分かりやすい。耳栓をしても、聞こえますから」
「中耳炎とか」
「余計なことを」
「はい」
「それよりも人は現実のものを見たり接したりする場合も、内側のエンジンで再現させているわけですから、全てが内なる出来事と言っても差し支えないでしょう」
「意識がなければ、何も見えず聞こえずですね。世界も消えるとか」
「しかし、私達が消えても、世界はまだ続いているでしょ」
「ああ、そうですねえ」
「ただ、捉え方の違いで、世界が全く違ってきます。同じものを見ていても、別の世界を見ているようなもので、幽霊が見えるかどうかより、こちらの方が深刻で、現実問題としては大きな問題でしょうなあ」
「はい」
「簡単なことで集団催眠状態になっていたりとかします。幽霊が見えるよりも、そういう現実の出来事がよく見える方が大事ですぞ。感覚や感性だけに頼るのも危険だと思われます」
「はい、参考になりました」
 
   了

 




2015年8月21日

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