小説 川崎サイト

 

大国の亡び


 その時代、三万という兵を動員できる大国があった。これは天下を取れるだけの勢力だ。あるとき、新興勢力が生まれ、その大名の領地を侵し始めた。侵略だ。それは普通にあることなので、珍しくはない。新興勢力の動員力は一万。普通に戦えば追い散らせるだろう。しかし、国境の豪族が次々に寝返った。新興勢力側に調略に長けた人材がいたのだろうか。
 豪族達は土地に根ざした勢力で、いずれも大名家に属している。その家臣だ。それらが集まって三万の兵となる。豪族達は将来のことを考えると、今の主は凡庸で将来性がない。それが平和な時代ならいいが、将来を託すのに不安を感じていた。この豪族の主である大名との関係は、家臣ではあるが、属しているだけで、昔からの関係ではない。このあたりの豪族の中で、一番勢力が強いため頭になった。ただそれは当時、纏めるだけの力のある名君がいた。今は三代目で、その力はない。
 それで、その大名、支配地を徐々に失い、動員兵力は二万になった。ただ、それだけの兵力を動員する戦などやったことがない。外に打って出ないためだ。
 新興勢力からの調略で、ころころと、主替えをした豪族が、今度は仲間内の豪族を説き、次々に新興大名側に加わった。
 勢いの違いだ。しかし、この間、戦はない。調略戦だ。
 支配地を失いつつある大名家には有能な人がいなかった。いずれも二代目、三代目の家臣で、その家臣自身が豪族の長でもあった。
 結局この大名は、昔の豪族時代の兵力しか動員できなくなる。その兵力僅か五百。天下を狙える三万の大軍を持っていたはずなのに、この様だ。
 ただ、この大名家の長老で智に長けた人がいた。小うるさい老人のため、重用されなかった。最初侵略の動きがあったところで、進言したのだが、聞き入れてもらえなかった。何故なら、戦になるからだ。
 つまり、侵略の兆しが分かったとき、三万の兵を率いて新興大名領に逆に攻め込めば支配地も増える。
 聞き入れられなかったのは、そこまでする必要はないと考えたからだ。それに戦になると、色々と経費がかかる。さらに大きな戦は一代目で終わっており、二代目三代目時代、小競り合い以外、大軍を動かしての戦はなかったのだ。
 結局一戦も交わすことなく、この大名家は城から逃げ出し、再起を図ることにしたが、従う兵は子飼いの郎党も逃げてしまい、数十人。そして本拠地の村も、既に敵に占領されてしまっており、行く当てを失った。
 その三代目の凡庸な殿様の孫が、領地を取り返し、中興の祖となればいいのだが、そうはいかなかったようだ。
 
   了

 


2015年8月27日

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